第23話

「……うわぁ……!」

 意中の女性の手料理を喜ばない男が居るだろうか。

 ジュディが届けてくれた手紙とお弁当に、ファムータルは目をきらきらと輝かせた。


 今すぐがっつきたいのを抑え、手紙を読む。

 手紙の封蝋は丁鳩のものを借りているようだ。


 鈴華はマッシュポテトを多用した料理が得意らしい。

 手紙を読み進めるにつれて、ファムータルの食欲は増していく。


 読み終わると手紙をメリナに預け、いよいよお弁当を開封する。

 鈴華曰く、「召し上がる量が少ないと聞いたので少し多めに作ってみました」というお弁当は、あっという間に平らげられた。


「……殿下……今日は沢山お召し上がりになりましたね」

「こんな美味しいの、食べたことないよ!」


「毎食、鈴華様にお願いしましょうか? 殿下は食が細すぎて私たちも困っております」

 侍女長の棘のある言葉も、今は祝福にしか聞こえない。


 ファムータルは立ち上がると、母エリシアの遺品が詰まっている鏡台に向かい、

「母様、こちらいただきます」

 祈りの仕草をした後、鏡台から出したものを大事そうに掌に包む。


 こちらを睨んでいる侍女長が怒り出す前にそそくさと寝台に戻り、いつも通りメリナにレターセットと万年筆を出してもらった。

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