第22話

ファムータルから三度目の手紙が届き、鈴華は丁鳩邸の厨房を借りていた。


「アレルギーが?」

「はい、羊肉と瓜類はエキス一滴でもお口に入れば、殿下は身罷られます。

 他には、数日寝込む程度ですがナツメグも……」

 丁鳩邸の侍女で、鈴華の世話係になったジュディが説明してくれる。


「じゃあ、その食材は絶対使っちゃいけませんね……」

「ここにある食材だけで調理なされば大丈夫でございます」


 美しい金髪の美女は言う。

 彼女は元々親に売られ、娼館で高級娼婦としての生活を強いられていたところを、丁鳩が娼館を摘発し保護したらしい。


 彼女だけではない。丁鳩邸の使用人は、娼婦、男娼、奴隷などの人身売買の被害者たちだ。兵士や騎士は例外だが。


 丁鳩はこの邸で彼女らが社会復帰できるよう訓練を行い、大丈夫と判断すれば然るべきところへ奉公に出していた。


 そうやって自立を促すシステムだったのだが、丁鳩を慕うあまり、訓練が終わってもこの邸に留まる者もいた。彼女もその一人だ。


「ファムータル殿下は基本的にこの邸に出入り自由でございます。

 よくお食事もここでお召し上がりになるので、アレルゲンは一切置いておりません」

「あ、じゃあ、ファムータル殿下のお食事の好みも分かりますか?」

「はい、大体は。

 ですが、先に鈴華様のお得意なメニューをお伺いして、それがファムータル殿下のお好みに合うか考えましょう」

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