第19話
魔法医の治療で肌の爛れは完治したが、自分に魔力を使ってくれた魔法医の魔力を全て吸い上げてしまった。
魔法医の魔力容量からして体調に異変が出るほどではないと思うのだが、これから回復まで時間を要し、その間不便な思いをさせると思うと申し訳ない。
「ごめんなさい、先生」
謝ると、魔法医は、
「これが仕事です。お気になさらず。
ですが……もう陽に当たっても、治す手段はありませんからね?」
笑顔の魔法医に、落ち込んだ顔で頷く。
ファムータルの私室は、窓に暗幕が張られ、魔力をファムータルが吸収してしまうため、蠟燭やランタンで明かりが灯されている。
ここまで運んでくれた医者二人は、
「魔力は寝ていても起きていても回復量は変わりませんが……事故の起きないよう、大人しくしていてください」
「また診察に来ます」
そう言い残して去っていった。
寝台で上半身を起こした状態でファムータルは部屋を見回す。
部屋中に飾っていた花は、ファムータルの魔力で咲かせた花だったが……全て魔力を吸収され哀れな姿になっている。
「……まるでベニトア石だ……」
無尽蔵に魔力を吸収する石に自分を重ねる。
魔力が高く処刑の妨げになる時など、罪人の魔力を吸収するのに使われるのである。
侍女がひとり、花の死骸を片付けてくれている。
「ねえ、メリナ」
「いかがなさいました? 殿下」
花を片付けていた侍女は、一礼し、
「お花でしたらご心配なく。先程花屋に魔力栽培でないものを発注致しました」
「ありがとう。
それより……君もそこにいると、僕に魔力を吸われちゃうよ……」
未だにそばかすの残る侍女メリナは、にこりと笑い、
「お医者様は、ファムータル殿下に魔力を使わなければ大丈夫だとおっしゃっていました。
このお花は、殿下の魔力でしたから、殿下に戻ったのでしょう」
「……そう?」
「……殿下。【お嬢様】に何かしたくて溜まらないんでしょう?」
「……う……」
メリナの顔に、何年お傍にお仕えしているとお思いですかと書いてある。
いそいそと寝台にテーブルを持ってきて、引き出しからレターセットを出し、
「お手紙を書かれてはいかがでしょうか?
お身体のご負担も少ないですし」
「あ! いいね!」
メリナに直接触らないように気を付けながら、テーブルに置かれた万年筆を執る。
「その前に、兄様にお詫びかな……」
部屋の壁では、母エリシアのお気に入りの写絵が息子を見守っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます