第4話

「昼間ならティーズが沢山見えるんだけど……この時間じゃ無理だね」

 担架で運んでも抱えて帰っても変わらないと聞き、少年は自ら抱きかかえて歩くことを選んだ。

 腕の中のボロボロの彼女に語り掛けながら歩く。


 時刻は宵の口。腕の中の彼女は、ほぼ眠っていた。


 邸に梟を飛ばして準備するよう指示を伝えてある。有能な使用人たちが、今頃整えてくれているだろう。


「ねえ、アドア。

 アドアって言うのは、神聖語で愛妻っていう意味で……君のこと。


 ……まだ早いかな?」


 頬を撫でたいが、両腕は彼女を抱える為に塞がっている。

 少しためらいを見せた後、そっと頬ずりする。

「僕が助ける。方法はあるから、治ったら僕のお嫁さんになって」


 見送れと言われて彼女を預かったが、少年に彼女を逝かせるつもりなどさらさら無かった。

 昔兄と祖父がやってくれたのと同じことをすれば、彼女も助かるはずだ。


 ひどく――酷く軽い彼女に涙が出そうになるのを抑え、笑顔を作る。

「大丈夫。助けるからね……」

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