第5話

邸に戻ると、準備は出来ていたようで即、使用人たちが出迎えてくれる。

「お祖父様は?」

「少々お待ちください。今いらっしゃいます」


 少年が帰ってきたことを聞いた祖父が来てくれた。

礼竜らいりょう。……大丈夫か?」

「お祖父様! 僕のアドア!」

 祖父の言葉の空気も読まず、必死に腕の中の彼女を紹介する。それを見た祖父は、

「そうか、愛妻アドアか。

 だが、我々まで愛妻とは呼べないな」

「あ……」

 少年は腕の中で眠る彼女に目を落とし、

「そっか、僕にとってアドアでも、他の人からはそう呼べないんだね」

 無邪気に、優しく語り掛ける。


 祖父はこの時、少年の態度が見送るもののものではないと気が付かなかった。


 優しく少年の頭を撫で、

『安らかに逝かせてやりなさい』

 初めて人の死を目の当たりにするであろう孫に神聖語で、そう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る