第61話

冷たくそう言うと、大黒は酷く悲しい顔をした。


その顔を見ると、さっきのヒカルの顔を思い出し、──……また、まただ。また俺は八つ当たりしてしまった。



大黒はいきなりの呼び出しに来ただけ。

半ば強引にラブホの中に連れ込まれ、動揺するのが当たり前で。



「……ごめん……、別に、あんたに言うまでもないってだけで……ごめん。強く言いすぎた」



体を起こし、ヒカルの二の舞になるかと、軽く頭を下げた。



「……神城さん……」


「本当はちょっとイライラしてた……。家族と揉めて……。怖いなら、帰っていいよ……。タクシー代も出すし……。ごめん……そうだよな、女をホテルにって、〝普通〟は連れ込まないよな」


「そ、なんですね……、大丈夫ですよ、誰だってイライラすることありますから」



困ったように笑う大黒……。




「俺、朝までいるつもりだけど時間は平気?」


「あ、はい。友達の家に行くって言ったので。そのまま寝ちゃったふりをすればなんとか……」



友達……。



「そう……いいね、仲良い友達がいたら」


「はい、──…でも、父親の相談は、できませんけど……」



自分を殺すかもしれない父親……。

たしかに、相談できないよな。

異常性癖なんて、〝普通〟はないから。

話してもなにそれ?で終わるだろうし。



「神城さんも家庭環境複雑なんですか?」


「そうだね……、嫌になるぐらい」



友達さえ、作れなかった人生だし。



「ごめんなさい、それなのに私が……」


「いいよ──……っていうか、ウミでいいよ。呼び方」


「え?」



ウミっていう名前も、大っ嫌いだけど。



「神城って名字、嫌いなんだ」



大黒は、ぽかんと口を開けたけど、すぐに納得した顔になった。



「私も千尋でいいです、私も──……大黒って名字嫌いだから……」

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