第60話

奈都なら、したいと思うけど…。

人と壁を作る自分には、そういう考えはないから。




2度目の風呂に入ったあと、バスローブを着た。まだ濡れている服を着ている大黒を見て、入るように言った。風邪をひかれちゃ困るから。


大黒が入っている間に濡れた服を椅子にかけ、ベッドに寝転び、スマホを見た。



そこにはヒカルからの着信とメッセージが届いてた。



『どこにいる?』


『母さんが心配してる』



心配──……

ルイよりも、心配してないくせに?

だけど足を引きずる母親を思い出せば、凄い苦しかった。


俺のせいで母さんの足が──……


本当なら、俺が刺されていた。

俺が死んでいたかもしれない。

俺が──……

俺が、母さんの人生を壊した……。




母さんの名前を出されると、無視ができないこと、ヒカルは分かってる。



『朝に帰る』




そう連絡をしたあと、電源を切った。



しばらくして大黒が戻ってきた。バスローブを着ているからか、やけに肩が薄く感じた。「す、すみません……お待たせして……」と、まだ戸惑ってるらしい女から視線を逸らした。




「緊張する意味ある?」


「そりゃ、しますよ……こんなところ入るの、初めてだから……」


「俺も初めてだけど緊張する意味分からない」


「え?」


「好きなやつなら分かるけど、赤の他人と…、何もないって分かってんのに」



ぽつりと呟けば、大黒はこっちに近づいてきて、俺が寝転ぶベッドに恐る恐る腰かけた。




「異性と2人きりだから、緊張しますよ」


「恋愛感情とかないのに?」


「はい…」


「恋愛感情ないのに、やるかもとか、考えるだけ無駄だよ」


「……あの、神城さん?」


「……なに」


「何かあったんですか?」


「……」


「今日、ずっと不機嫌だから…」


「……」


「なにか、ありました?」


「別に」


「……」


「あんたには関係ないから」

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