第59話

流石にいきなりだったからか、店の前についても大黒はいなかった。もう時刻は22時を過ぎていたから、店の中に入るわけにもいかない。普通だったら、補導される時間。


大雨のせいで、傘の意味も無くなってきた。



大黒が来たのは、俺が来てから30分ほど経った後で。余程急いで来たのか、大黒も傘をさしていたけど、細い肩周りや足元も濡れていた。



「すみません……待たせてしまって……」



息が乱れている肩を見た後、ふい、と、視線を逸らした。



「出てこれたの?」


「は、はい、なんとか誤魔化して……」



殺されるかもしれない父親に?



「そう……」



適当に呟き、足を進めた。突然歩き出す俺に驚く大黒の息はまだ乱れたままで。



「あ、あの、どこか行くんですか?」


「店、入れないし。こんな雨で立ち話は嫌でしょ」


「え……そ、うですけど、どこに?」


「休めるとこ」



休めるとこ?

だから、どこに行くの?

そんな顔をする大黒を無視して、歩き出す。


歩いて5分。


目的地にたどり着いた時、大黒は躊躇っていた。それでも年齢確認されない場所といえば、ここしかない。


こういうところは中学時代のヒカルも利用していた。だから入れるのは分かってる。



「早く来て」


「か、神城さん、でも、ここ……」


「計画するんでしょ」


「でも、ここって……ラブホじゃ……」


「じゃあ帰れば? 俺はもう帰る気ないから」


「……」



冷たく、ぶっきらぼうに言えば、大黒は黙り込んだ。


困った顔をする大黒だけど、スタスタと中に入る俺に、戸惑いながらもついてくる。






部屋の中に入り、荷物を置き、風呂場の方へと歩く俺に大黒は「な、なにも!」と大きい声を出した。




「……な、なにも、しませんよね?」




そういう行為を?

そんなもの、するわけが無い。




「風呂入れてくる、濡れてるし気持ち悪いし。嫌なら帰れば?」


「……──…」


「何もしないよ、そういうの興味無いし」

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