第50話

───ウミくんはブラックだったよね?



とある公園のベンチ。そこに座り込んでいると奈都が笑って缶のコーヒーを差し出してくれた。なんでブラックだって分かったんだろう?と思ったけど、この前図書館でコーヒーを飲んだことを思い出した。



「……金、」



まさか奈都がいつの間にか買ってくれたとは思わず、慌てて財布を出す。



「いいよ、奢らせて。せっかく来てくれたんだもん」


「いや、でも」



流石に年上といえど女だし。奢られるわけにもいかないから。金を出そうとすれば、「じゃあまた今度何か奢って。それでチャラはだめ?」と、奈都は俺の横に腰掛けた。



「……いいの? ありがとう。奈都さんは甘いの好きだよね?次は俺が出すから…」


「うん」



奈都はミルクティーの缶の蓋をあけた。その指先を見ながら、手に持っている缶コーヒーをぎゅっと握る。冷たい缶コーヒーは、心地よく。



「……ヒカルのこと?」



そう言った奈都は、俺がここにいる理由が分かっているようだった。


小さく頷けば、奈都も頷き。



「聞けるの、奈都さんしかいなくて」


「うん」


「……ヒカル、傷ついてない? ヒカル、怒ってなかった? ヒカル──…俺の事、何か言ってなかった?」


「…」


「嫌い、とか」



奈都を見れば、笑っていなくて。何か言うのを迷っている様子の彼女は、「ヒカルがウミくんのことを嫌うことは無いよ」と、真面目な顔をした。




嫌うことはない──……


あんなに酷いことを言ったのに?



「ヒカルはずっと、ウミくんのことを心配してるよ。怒ったり、するかもしれないけどそれはウミくんの事が好きだから」


「……泣いてなかった?」


「泣いてないよ」



軽く、穏やかに微笑んだ奈都に、少しだけほっとしている自分がいて。


本当に嫌われてない?



「……どうすればいいか分からない…。謝ろうと思うのに、ヒカルがしたことを思い出したら、謝れなくて」


「うん」


「謝りたいのに……」


「…私が言ったからだよね、本当にごめんね」


「ううん、違う、そうじゃなくて……」


「……」


「そうじゃない……」


「うん」


「もういやだ…」


「ウミくん……」


「いやなんだ……」


「うん…」


「どうしたらいいか……」


「……」


「考えるばっかで何もしない自分がいやで」


「……」


「こっちが拒絶してるのに、嫌われたくない……」




少し泣きそうだった。

涙腺も熱かった。

気を抜いてしまえば、涙が出そうだった。

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