第51話

「嫌わないよ、ヒカルがウミくんを嫌うことは絶対ないよ」




奈都は俺を慰めてくれるけど、やっぱり解決っていうか、不安がおさまることはなくて。



「だからヒカルの場合は、拒絶とかじゃなくて、ウミくんがこうして悩んでる方が辛いんじゃないかな?」




悩んでる方が?


俺が?




「ヒカルも同じだと思うよ? 自分のせいでウミくんが傷ついたって思ってるかもしれない」



ヒカルのせいで……?

それは違う、俺が酷いことを言ったから。酷い言動をしたからなのに。



「見てれば分かるよ。ヒカルはウミくんのこと大好きだから」



ヒカルが俺の事を?

だったら……。



「どう、すればいい? 奈都さんは……どうすればいいと思う?」



少し上目遣いがちに、奈都の方を見た。

奈都は、穏やかに笑ってる。



「自分の思う通りにしたらいいと思う。私が言ったことをしてもウミくんの意思じゃないから…」


「思うように?」


「うん、ウミ君の好きなように」


「その行動がヒカルを傷つけることになっても?」


「だってそれがウミくんだもん」



──……俺?



「自分の本音、言えばいいんだよ」


「……本音?」


「ヒカルは許してくれるよ、大丈夫。ヒカルは優しいから」




知ってるよ……。優しいのは。

ヒカルはずっと俺を庇って守ってくれてたから。



「もう一度話してみたら?」


「……うん」


「もしそれでまたケンカになったら、相談して?私いつでも暇だし……あ、そうだ、連絡先知らないよね? 交換してもいい?」



缶をベンチに置いた奈都は、カバンの中からスマホを取り出した。


連絡先を交換する?


いいの?


ルイは?


奈都と交換して──嫉妬しない?




そう思ったけど、奈都の連絡先を知りたいと思うのは自分自身もで。「うん、」とスマホを取りだし奈都と連絡先を交換した。



奈都の、連絡先のトップ画面は、ルイとのツーショット写真で──……。


それを見て、なんで奈都はルイなんだろう?と思った。




「ウミくんって、漢字で書くと〝優三〟なんだね。珍しいね」


「…うん」



〝優三〟

イヤな名前。




「優しいって文字、ウで読むのはあんまりナイから」


「確かにそうかも」



ふふ、と笑う奈都。


嫌な名前──……出来ることなら改名したい。




「俺、自分の名前嫌いなんだ」


「……前に言ってたね、虐待だと思わない?って」


「うん……そう。るいも、ひかるも、父さんからとった名前なのに……」


「お父さんから?」

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