第47話

汗が引き少し息が落ち着いた頃、洗面台で顔を洗いに行った。


窓の外は真夜中。


ルイは今頃、寝てるんだろうか?

そう思うと本当に腹が立つ。

こっちはこんなにも苦しんでるっていうのに…。

一生、家に帰ってこないで欲しい。



部屋に戻り時間を確認しようとスマホを見れば着信が入っていた。名前は大黒で。

その名前を見て深いため息をついた。

メッセージでは『どうでしたか?』とあって。

正直今は、それどころじゃなく。

自分自身のことで精一杯で──……。



まだ夜中の3時。

今送ってもどうせ見ないだろうと。

既読だけをつけ、スマホを閉じた。




朝、ヒカルが洗面台で鏡を見ながらワックスで髪を整えていて。そんなヒカルの後ろ姿を見ながら、この前はごめんと謝ろうと口を開いたけど。

ヒカルの髪を整える指先を見れば、あの手で奈都を押さえつけたのかと思ったら──謝ることができなかった。




ヒカルが好きなのに──……。

ヒカルはルイと一緒じゃない。

でも、でも、でも──……。



「おはよ」



ヒカルが俺に気づいて声をかけてきたけど、上手く笑えなくて。



「どした? 顔色悪いな」



前かがみになって、明るい目が、俺の目を見てくる。普通のヒカル……いつもと変わらない。




「……昨日、あんまり寝てない……」



ボソボソと言えば、「またルイの夢?」と体を起こした。



「……うん」


「どんな?」



どんな?どんなって……

俺を心配してくれるヒカルは、この前のこと怒ってないのだろうか?



「ルイが──手いらないって言って、手首を縛ってくる夢……。縛った方が切断する時痛くないって…」


「あー、あん時のか」



ヒカルは眉を寄せた。



「大丈夫か? 学校休む?」


「ううん…もうすぐテストだし」


「そうか、あんまり無理すんなよ?」



ごめん、たった3文字なのに。



「……大丈夫、もう慣れたよ、寝不足は」



ヒカルは曖昧に苦笑いしながら、「そうだな…」と、洗面台から離れていく。





ほんと、謝れないなんて自分のことしか考えてない。ヒカルは今でも傷ついてるのに……。

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