ノーモフィリア2

第39話

────ヒカルside




珍しいことがあった。

ルイが施設に行った以来、俺からは「おはよ〜」って話しかけたりはしてたけど。

向こうから話しかけてくることはなかった。


それなのに授業サボって保健室で寝てたら、「ヒカル、寝てるの?」っていう小さい声が聞こえて。一気に目が覚めるのが分かった。


目を開ければ、やっぱりそこにはなっちゃんがいて。夢じゃないと確信する。



「ごめんね…起こしちゃった?体調悪い?」



眉を下げながら謝ってくるなっちゃんの方に、少し体を向ける。こうやって話すのは何日ぶりか。




「ううん、サボってウトウトしてただけ。どしたのなっちゃん、珍しいね」


「ヒカルにね、会いに行ったの。そしたら保健室で寝てますって言われて。体調悪いんじゃないかって…心配になって」


「そうなんだ、ごめん。心配かけた?」



俺の目を見たなっちゃんは、ううん、下瞼辺りを見て、「寝てないんだね」と、眉を下げた。



寝てない…

確かに、寝れない。

だから今もこうしてなっちゃんの声ですぐ起きた。



「…分かる?」


「分かるよ、ヒカルの目、綺麗だから」


「じゃあずっと見てて。俺が寝るまで」


「何言ってるの? 目閉じなきゃ」



呆れたように笑うなっちゃんが、好きで。

今すぐ抱きしめたいのに…


もうなっちゃんを泣かせたくない…。



「ウミくんとケンカしたから?」



ウミ…。



「なっちゃん、ウミと会ってる?」


「…うん」


「ウミ、なんて?」


「異常性癖は遺伝だから別れた方がいいって」



遺伝…。




「なにそれ、ウミのやつ、なっちゃんのこと嫌ってたのに。散々、俺頼りにして今までルイが怖いって何もしなかったくせに…。ルイがいなくなってからそれかよ」


「…ひかる」


「…ムカつく…」


「…」


「なっちゃん、俺ね。ウミに普通じゃないって言われちゃった。信用してたのにって。なんでなっちゃんを襲ったのって」


「……ひかる」


「……俺だって、したくてしたわけじゃないのに……」





泣きそうになって、腕を目の上に置いて隠した。


なっちゃんにこんな愚痴。


なっちゃんは被害者なのに。

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