第38話

奈都は何も言わない。

俺の言葉に驚いているかもしれない。

でもこれできっと分かってくれただろう。

ルイのそばにいたっていいことなんて、ひとつもない。



──カランと、氷の音が鳴った。


それと同時に、「…知ってるよ?」と、奈都の声が聞こえた。


知ってる?

何を?

まさか遺伝すること?

驚いて顔を上げ奈都を見れば、水が入ったグラスを口にしていて。



「遺伝でしょ? 知ってるよ」


「知ってる…?」


「うん」


「知ってて別れないって?」


「うん、ルイくんさえいれば、いいの」



ルイさえ?

子供は望むとも、ヒカルがいるのに?




「ところで、ケンカって…。ウミくん、ヒカルに何か言った?」


「…え?」


「ごめんなさい…、まさかケンカするとは思わなくて。そういうつもりでこの前、言ったんじゃなくて」


「…」


「…ヒカルの、」


「…」


「っ……、ごめん…ヒカル………」





なんで、奈都がヒカルに謝るのか、全く分からない。自分のことよりもヒカルを想って泣きそうになっている光景を見て、なんで?って思う。




「…ウミくん、」


「なに…」


「…お願い、ヒカルを1人にしないで…」

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