第37話

結局、昼過ぎということもあって、奈都と一緒にファミリーレストランに来ることになった。土日だったけど、ピークは過ぎたのかあまり混雑はしていなく。



「私ね、ここのドリア好きなの。ウミくん何が好き?」



酷いこと言ったのに、ずっと笑う奈都に、すごく申し訳なかった。


注文し、待っている最中、「何かあった?」と心配そうに俺を見る奈都に、なんて言おうか迷った。



もうルイを忘れた方がいい。

待つのをやめろ。

奈都が傷つかない方法ってなに?

どう言えばいい?




「……あんたって、なんでそんな、笑うの」


「…え?」


「ルイに、なにかされたこと、あるんでしょ」




奈都は笑みをやめる。

傷つけた。

俺の言葉が、奈都を傷つけた。



「……俺…ずっと、怖かった…ルイが」


「うん」


「ほんとに、……殺されてた」


「…」


「今でも夢見る、眠れない…」


「ウミくん…」


「あんた、なんでそうなの?どうやったら受け入れられる?」


「…」


「俺は無理だ…どうしても」


「人によって違うもの。それは仕方ないと思うな」



人によって…。

なんでも、受け入れる?




「ヒカルの事も…?襲った男と身内になってもいいの?」


「…え?」


「あんた、本当にいい人だから…」


「…」


「俺らと縁、切った方がいい……」



伝えないといけない。




「……ヒカルに言った?襲われた時のこと」


「……うん、言った。それで今、ケンカしてる…。俺、ほんとに弱い人を襲う考えって無理で……」


「…」


「特にそれが、ヒカルだったから…尚更」



眉を下げた奈都は、泣きそうな顔をしていた。



「……あんたが、ルイと結婚したら、どうなるか分かる?」


「……ウミくん…」


「ルイしか見てない親達…。あんたのこと、絶対庇わないよ」


「…」


「それにヒカルがまた、あんたに手を出すかもしれない…」


「…」


「ルイに嫉妬される毎日だよ」


「…」


「あんたは心が広いから、許しちゃうだろうね。…バカにしてる訳じゃないよ、本当に、なんでも許す。──俺の、母親みたいに」




俺が下を向いているせいで、奈都の顔が見えない。



「……そんな母親が、遺伝させてごめん、って泣いてた」



奈都は今、どんな顔を…。



「──…奈都さん」



俺は自分の拳を握りしめた。




「異常性癖は、遺伝する──…。




だからもう、あんたは神城家に関わらない方がいい。



あんたは優しいから、母親の二の舞になる。




こんな血筋、無くなった方がいいんだから…」

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