第20話

「たまにルイとは電話とかしてるっぽい」



電話……。

俺とルイが会話をしたのは、いったい何ヶ月前だろう。



「別れる気配とかないの?」


「ないだろ」


「……ふうん、あいつなんかやめてヒカルを選べばいいのに」


「なんだよウミ、お前なっちゃんのこと嫌ってなかったか?」



ヒカルの質問に、少し眉が寄せられた。



「それは、ルイと付き合ってるから……。ヒカルをふってほんとに男見る目ないし。ヒカルが選んだならいい人なんだろうなって思うけど……。ふたりが付き合えば俺だって嫌いじゃなくて奈都って子、好きになるよ」



俺の言葉に呆れたように笑ったヒカルは、「ほんとウミは俺の事好きだな」と、腕をのばしてきた。

そのまままるで子供へするように、柔らかく頭を撫できて。黒髪になった前髪が揺れるのが分かった。



その髪を見たら、急に罪悪感が芽生えてきた。

もう生えてくるのを待つまで、俺の髪は元には戻らない。



「うん、ヒカルが1番好き……。ヒカルは?ルイと俺どっちが大事?」


「どっちって、女みたいなこと聞くなよ」


「……」


「ウミ?」



ヒカルが俺の顔を覗き込む。



「何その顔。なんかあったか?」


「……」


「ウミ?」



ヒカルに、言おうか。

変な手紙のことを。


でも、ヒカルは〝普通〟が一番好きで。

俺の大事なヒカルが、そう望んでいるなら。


やっぱり言えない。



「ちょっと、色々あって。でももう大丈夫」


「色々って?」


「なんでもない。もし困ったらヒカルに言う」


「ルイ関係か?」



ルイ……。

いや、関係あるといえばあるけど、ないといえばない。手紙の内容は異常性癖の話だから。



「…さあ、どうだろう。分からない」


「分からない?」


「ヒカル」


「ん?」


「ううん、なんでもない。部屋戻るね」



ルイがいない今、ヒカルの〝普通〟は俺が守らないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る