第13話

「はぁ…」


と、適当に相槌をうった。



「ご、ごめんなさい、急に話しかけたりなんて…」



立ち止まっているのに、足に雨がかかる。雨が酷くなる前には帰りたいのに。

それに雨の日は、母さんの足が痛んで余計に動きづらそうにしてるから。



「……なんか、用?」



彼女はもう一度俺の方を見ると、肩にかけている鞄から何かを取りだし、3歩ほど近づいてそれを俺に渡してきた。


それはどう見ても、1枚の手紙。



「……あなたに、相談が…」


「相談?」


「あなたにしか、できなくて」



意味の分からないことを言う彼女は、何だか泣きそうな表情をする。


泣きたいのは俺の方。


いきなり知らない人が現れて、相談に乗ってくれなんて、本当にワケが分からない。



「よ、んでくれませんか?」



恐る恐る差し出された手紙を、あやふやな気持ちのまま受け取る。



「読んで、意味が、分からなかったら、捨ててください…」


「意味?」


「も、し、…分かるようでしたら、連絡をください…」


「…」


「…分かっても、無理だと思ったら……、今日のことを忘れてください…」


「…俺、あんまり理解できてなくて。あんた誰? どこの人?」


「大黒です…、家は、少し遠くて…」


「そういう意味じゃなくて、なんで俺の事知ってるの?」


「えっと、」


「なんの相談?」


「…すみません、外で言うのは、難しく…。うまく説明ができないかもしれません。読んでくれませんか?──…本当に、意味が分からなければ捨ててもらって構いませんから…」




大黒、と言った彼女は、泣きそうな顔で頭を下げると、そのまま急ぎ足で離れていった。

残されたのは、1枚の手紙。


真っ白の封筒。





そこには大黒 千尋と書かれていた。


フルネームを見ても、やっぱり見覚えなんてなかった。

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