第89話

「言ってくれるな、亜貴」


ふぅ、と藍は小さく溜息を零す。



おいおい、溜息吐きてぇのはこっちだわ



「亜貴のそーゆうところ、陽向が似てきてる」


「へ?おれ??」


「あぁ。良い事だ」


「う、うん?」



相変わらずマイペースな発言をぶちかまし、それに巻き込まれる陽向の頭の中にハテナがいくつか浮かんでるであろう



良い意味で空気壊すよな、藍



本人は至って大真面目であるが、椿も俺も引き攣り笑みを浮かべるしかできそうもない




無造作にセットされている前髪をクシャりと掻き上げ、覗かせたダークブラウンの瞳には、意思の強いものが浮かんで見えていた



「誓ってやる。二度と、あの女に傷ひとつ負わせねぇと」




ジッとその瞳を見つめ、藍の次の言葉を待つ



「この先も傍に置いておきてぇと思う女は里奈子だけだ」



そう一拍置いて、藍は儚げにそれでいて綺麗な笑みを浮かべた



「それに迷いもない」




初めて見る藍のその表情に、不覚にも一瞬時間が止まるような感覚になる



乙女チックな感覚、俺も持ってんじゃねぇのよ。




やれやれ、と降参だ。




キングも随分めんどくせぇ男だったらしい




「随分大胆な告白じゃねぇの。俺じゃなくて里奈子ちゃん本人に聞かせてやれよ」



そう言葉にしたと同時に藍は背を向けこの場から去って行く。

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