第84話

「…んなに…そんなに、いつまでもあの女なの?」


「ひな、」


思わず俺は陽向の名を呼ぶ。


陽向のその先の言葉が俺にはわかる気がした。



「利用するために置いてたりなちゃんだから蔑ろにしてもいいと思った?」


確信をついたそんな陽向の言葉に、真っ先に反応したのは意外にも椿の方だった。



ーがたん


近くの物が激しく音を立てて崩れ落ちる。



人ひとり殺せそうな鋭い眼光を陽向へ向け、胸ぐらを掴むとあと少しで殴り飛ばす勢いだ




「そんな訳ねぇだろうが!!」


派手な怒鳴り声がロビー全体に響き渡る。


あ〜こりゃ俺ら有名人じゃねぇの


そこらの警備員もスタッフもビビってねぇで止めにこいよ〜、あ、ナースはそのまま遠くで見守っててくれよ、女の子だしよ




「そうじゃなきゃ、なんでりなちゃんを助けられなかったの!それが出来たのがとうして俺らじゃない男だったんだ!」



ごもっとも、そうだよなぁ。


この出来事の続きにはまだ話があった。




里奈子ちゃんがダウトに巻き込まれたとわかった時、

あまりの急展開に下の奴らを連れていくことが難しく藍と椿だけで駆け付けたんだとよ。



NiGHTSのツートップを絞めようと息巻いていたどこから現れたのか、すげぇ人数のダウトの連中を片っ端から片付けあと数人って時、



この2人が一番助けて連れて帰ってやりたかった女…里奈子ちゃんは、既に知らねぇ男の手の中だったんだと



「あいつを蔑ろにしてんなら、俺の責任ってだけで守ることを義務感にしてんならな、」


「…っ」


陽向の胸ぐらを掴む椿の手に更に力が籠るせいで、陽向は苦し紛れに顔を歪める


「里奈子を離してやれねぇぐらい大切に思ってなかったら、死ぬほどここまで後悔してねぇんだよ!」



あぁ、なんだよ。椿



お前、ちゃんと…


「どうしようもねぇぐらい、アイツの顔見てぇって思ってなかったらこんなとこ来てねぇよ」

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