第21話

『おれは、あんたのことどう呼んだらいい?』


『それ、いまさら?』


『親切心で聞いてやってんのに。

覚えてねーの?おれ、あんたのこと、全部知ってるって』


ー…言わなかったっけ?




そう携帯越しに囁かれたそれに、私は記憶を、奴とはじめて出会った日まで遡らせる。


ーー……

ーーー………


[篠原里奈子。お前と話がしてみたかったんだよ]


その言葉からおかしいと、思えばよかった

奴はずっと前から、私の存在をわかっていたかのような言い方から始まっていた。


[…なんで私の名前を知っている]


[゛祠堂の女゛で有名だからなぁ]



[ただ、俺はそうじゃなくても]


私の答えなど待たず、


[おれ、あんたの事、知っている]


妙に、確信めいていたあの言葉


私が誰なのか、家の事情も存在も何者であるのかも、全て奴は知っていた。



ーー……

ーーー……


あの闇夜の一部分にしか過ぎない会話


こいつ、確信犯だ。


分かっていて、そう聞いてる。



『自己紹介しなくてもあんた私の名前知ってるでしょ』


『アイツらが知ってる方の姓で呼べばいい?』


『…』


『あぁ、それとも。會ざー…『その名を出すな』』



それ以上、他人からその姓を呼ばれたくなどない。


自分でも驚くくらいの…

あの家に関係している時にしか出さないような地を這うような低い声で奴を制す。

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