第12話

「覚えてるか、里奈子」


私の頭から離れた、藍のその手


離れたその手がなんとなく寂しく思う。



「なに、を」


恐る恐る、私は藍へ聞き返す。


ダークブラウンの瞳が熱く、真っ直ぐに私を射抜く。


動き出した車の後部座席


当たり前にいつもより近くなる距離感が、藍が私の頭に手を回し自分の方へと引き寄せたせいで更に近くなる。



…爽やかな、落ち着いた藍の匂い




「言いてぇことあんなら言え。ちゃんと答えてやる。前に、そう言っただろ」


「…うん、そうだった」


「覚えてんじゃねえか」


「覚えてる」


みやびに拉致られた時、藍が私にそう言ってくれた言葉だ。



どこか、少し、置かれたその距離感に寂しさや痛みを感じた時に藍は私に安心感を与えてくれた。


偽物でも求めてくれるならば、


私は利用されてもいいとそう思ったあの夜



その時の藍の手も、今みたいに温かい体温だった。



「お前を失わなくて済むんなら、言ってくれ」


少しだけ、私を引き寄せるその手に力が篭った気がした。

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