第13話
あなたが好き 再会
日本の夏はむわっとしていて暑い。飛行機が到着して、空港とジョイントされている通路でそれを思い知らされた。空港に佐伯さんと淳之介君が迎えに来てくれた。佐伯さんはレストランや、バーを経営していて、ママの知り合いで友人。淳之介君は佐伯さんと仲良さそうでもないのに、なぜかよく一緒にいる。
私は駆け寄って「ハロー」と言うと、二人ともそれぞれ違った反応をする。
佐伯さんは「ハロー。恵梨ちゃん、綺麗になったねぇ」と頭を撫でてくれる。
淳之介君は「お疲れ様」と言って、荷物を持ってくれた。佐伯さんが空港まで車で来てくれたと言うので、私は嬉しくなる。
「寄り道したい。ファミレス行きたい」と私が言うと、佐伯さんも淳之介君も笑い出した。
日本のファミレスは素晴らしいのに、と私は首を傾げた。いろんな食べ物を選べて、デザートもおいしそうだ。そんなお店はイギリスにはない。
「お姫様の言うように、行きましょう」と佐伯さんが言ってくれる。
私がいない間に随分、二人は仲良しになったみたいだ。
「美湖ちゃん、元気?」と私は聞いてみた。
美湖ちゃんは淳之介君のことを好きだから私のライバルだ。かわいくていい人だから強敵なライバル。
「毎日、元気にお菓子作ってるよ」と淳之介君が教えてくれる。
「ふうん」と私は相槌を打つ。
駐車場で車に乗ると、私は後部座先で、なぜか佐伯さんの隣が淳之介君だった。まぁ、佐伯さんが運転するから、その横は私だと変だし、私と淳之介君が後部座席で隣同士だと、佐伯さんはタクシー運転手みたいになるし…と考えて飲み込んだ。
「祥子ちゃんは元気にしてるの?」と佐伯さんが聞く。
ママのことだけど、ママは腎臓が悪くて、ちょっと体の具合が大変だった。今は落ち着いているし、なんなら治療してもらっている医師と付き合っている。
「うん。今は元気だよ。彼氏もいるし、私がこっちに来たから、二人で暮らすんじゃないかな」
「へぇ。パパは?」
佐伯さんの店にパパが来た事があるから、二人は見たことがある。
「パパは…かわいそう。いろんな人と付き合ってるけど、本当の愛を探してるみたいで、見つけられないの」
「まぁ、そういう行動してたら、誰も本気になれないよね」と佐伯さんが言う。
「そう。だから私は淳之介君一筋だから」とアピールしたけれど、相変わらず苦笑いされるだけだった。
ちっとも私のことを相手として見てくれない。あれから随分、成長したというのに…。淳之介君と会ったのは十一歳の頃だった。まだ子供だったけど、今はもう立派な大人だって自分でも思うのに…。とは言え、淳之介君が買ってくれたダンボのぬいぐるみは今でも大切に持っている。多少、くたくたにはなったけれど。
「淳ちゃん、モテるねぇ」と佐伯さんはそう言って、車でファミリーレストランの駐車場に入って行った。
「何食べようかなぁ。わくわくする」と私は本当に胸が高鳴った。
お店に入ってがっかりしたのは、私にはもうキッズメニューもおもちゃももらえないという事だった。別に欲しいわけじゃないけれど、そういったわくわく感はもう手に入らない。
「あのね…なんか、たくさんいろいろ乗ってるのが良かったの。ポテトとかウィンナーとかカレーとかスパゲッティとか…ハンバーグとか」
しょんぼり言うと、佐伯さんが「好きなの全部頼んだらいいよ」と言ってくれるけれど、私はワンプレートにいろんなものが乗っているのが好きだったのだ。
「ほら、こういうのやってるよ」と淳之介君が指さしてくれたのは「大人のお子様ランチ」と書かれていた。
確かにワンプレートにオムライス、エビフライ、ハンバーグにサラダとプリンまでついている。さすが、私の大好きな人は私が欲しがっていることをすべてわかってくれている。
「それにする。大好き」と私が言っても、淳之介君はごく普通にタッチパネルで注文を始めた。
「淳ちゃん、さすがにそれはないでしょ? 恵梨ちゃんが告白してるのに」
「あ、ごめん。ありがとう」
あと一声。
『僕も好きだよ』って…いつか言ってくれるのかな、と私は淳之介君を見たら、目を逸らされた。
(あれ? もしかして…嫌われてる?)
「恵梨ちゃんは変わらないね」とだけ呟いた。
それって、いいことなの? それとも? 私は淳之介君の横顔を眺める。
真夏の午後の日差しがテーブルに注いで、店員さんがロールカーテンを下ろしてくれた。
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