第12話
あなたが好き お久しぶり
私には好きな人がいる。年がずっと離れた人で、住んでる場所もずっと遠くの国だった。なかなか会えないのは自分が子供だから仕方がないとは思っていたけれど、ずっと忘れずにその人のことを思っている。
「恵梨、今日、パパとご飯食べる日よ?」
「はーあーい」と返事をしたものの、気が進まなかった。
離婚している両親はイギリスの法に乗っ取って、共同親権らしい。どうして子供のためだと言う法律なのに、私の気持ちとは全然違うのだろう。私は別にパパとご飯を食べたくない。冷たいサンドイッチでもいいから、部屋でゴロゴロしながら、淳之介君に手紙を書いたりしたい。電話は週に一度と決められていた。
「ママ…。お腹痛い」
「え? また? …行きたくないの?」
「うん」
ため息を吐いて、パパに電話をしてくれる。その代わり自分で説明しなくてはいけない。
「パパ、あのね。今日は雪も降ってるし、お腹も少しいたいし…家にいたいの」と言ってしまったからパパが家に来ることになった。
ママはお医者さんとデートだ。
「恵梨が来てもいいのよ?」と気を使って言われたけれど、そんなのまっぴらごめんだ。
「私のデートには付いてきて欲しくないから、いかない」
そう言うと、ママは目を大きくして私を見る。
「好きな人出来たの?」
「内緒」と私は言って、部屋に戻った。
ママは私が淳之介君のことが好きなのを知っている。だって、淳之介君はママの元カレだから。ママと二人で日本に来た時にお世話になって、私は大好きになったのだ。結局、パパと一緒にイギリスに来たけど…ママはどうして淳之介君を選ばなかったのかな。淳之介君も好きそうだったし…ママも好きだったはず…。まぁ、二人がくっついたら、私は嫌だったから、それでよかったんだけど。
パパは女好きで、遊び人だけど、私に優しくて、甘いから何でも言うこと聞いてくれる。だから今日、パパにお願いしようと思う。日本の学校に行くことを。そのためにたくさん勉強もしたし、成績だって、満足いく結果を出した。
パパが時間通りに来て、ママは出ていった。パパは男前で、甘いマスクなんだけれど、モテるせいか女性にだらしがない。言い寄って来る女性とはほぼデートしている。
「恵梨…。具合はどう? シェフにミネストローネ作ってもらったから」と言って、袋から自分のお店のスープやパン、サラダを取り出す。
パパはレストランのオーナーで何店舗か経営している。
「ありがとう。ゆっくりしたら、治りそう」と私は仮病を使った。
私は手際よく並べられたテーブルに着いた。そして食べる前に日本の学校に通わせてほしい、と言った。日本では高校生になるのだから、あっちで暮らしたいと言う。
「日本…」と呟いてしかめ面をした。
「だって…淳之介君に会いたいもん」
「またあいつか」と忌々しそうに舌打ちした。
「だって優しいし…。かっこいいし」
「年が上過ぎる。あいつはロリコンなのか」
私は思い切り頬を膨らませた。
「でも…日本に行くのは止めない。もう恵梨も大人になるし…。自分で決めなさい」と言ってくれた。
パパは私には大人なのに、どうしてママにはそうできなかったのだろう、と疑問で聞いたことがある。
「好きだったから…。素直になれなかった」
理解できない。
だから私は素直にいつも「大好き」って言う事にしてる。画面で困った顔して笑う淳之介君は応えてはくれないけど。
そんなわけで、無事、日本に向かうことができた。
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