第28話

愛しい人


 車内のキスから、私は翠さんを押し倒しそうになった。どうにかなだめられて、帰ってきたけれど、そんな自分が怖い。


 お風呂に入って、ベッドに横たわり、冷静になってみると、絶対おかしい。翠さんは私をなだめるために「毎日おいで」とか言ったけど、引いたりしてないだろうか、と考えると震えてしまう。ぐるぐる考えていると夜中になって、珍しく、スマホが光った。


 バクテリアのメッセージが届いた。


『明日、楽しみだから、今日は遅くまで研究室で頑張る』


 そのメッセージが胸に刺さった。約束していた夏祭りは明日だった。


『お疲れ様です。なるべく早めに休んでくださいね』と返して、また震えた。


 こんな私をいつまでも待ってもらうわけには、と明日話をしようと決めた。



 駅で、桃ちゃんと奈々ちゃんと待ち合わせをする。少し早めに集まって、女子だけでお茶をしようと決めていたのだった。私は白地に赤い金魚模様の浴衣にグレーの兵児帯でふわふわした襞が背中についている。桃ちゃんは注染の藍染の一色でレトロな朝顔模様に麻の帯をすっきり巻いて綺麗だった。奈々ちゃんは水色の雪花模様に白い帯で涼し気だった。


「絹、かわいいー。金魚みたい」と奈々ちゃんに抱き着かれる。


「お母さんがしてくれて…」


 髪も綺麗に編み込みして、アップスタイルにセットしてくれた。


「ほんと、帯は出目金のイメージ?」と桃ちゃんが背中を見てくれる。


「お母さん、すごく楽しそうにしてたけど…自分ではできない」


「私も」と奈々ちゃんが言う。


「私は自分でした」


「えー」と二人で驚くと、桃ちゃんはお茶を習っていたそうで、着物は自分で着れるのだ、と言う。


「お茶習ってたなんて」と驚いて言うと、お母さんが趣味でやっていて、小さい頃から一緒について行ってたらしい。


 だから着慣れているのか、着物が本当に良く似合う。


「竹久夢二の絵みたい」と奈々ちゃんが言うと、


「もー。レトロ通り越して、歴史じゃん」と桃ちゃんが笑いながら言う。


 三人で駅前のカフェに入る。浴衣姿だと店員さんも心なしか優しい気がする。夏祭りであれこれ食べると思うのに、やっぱり三人ともケーキを頼んでしまう。


 私は二人に笙さんにちゃんと話をしようと思う事を伝えた。


「え? どうして? だって待つって言ってたじゃん?」と奈々ちゃんは体を乗り出す。


「…でも、私…どうしても気持ちが。自分でも怖くなるくらい…好きで」


「ん? でも付き合えないと思うよ?」と桃ちゃんが冷静に言う。


「分かってるんだけど、私、押し倒しそうになって」


 思い切って言ってみたら、二人が固まった。そして次の瞬間


「絹が?」と二人の声がハモった。


「私が…キスしたくて、キスして、離れられなくなって、それで…」


「え? したの?」と奈々ちゃんが訊く。


「してない。頭抱えられた」


「あ、抱え込み?」と桃ちゃんも聞き返す。


「そう…。それ以上、暴走しないように…だと思う」


 二人が笑いを堪えているのが分かる。


「子猫がじゃれてるの…いなすような感じだったんじゃない?」と奈々ちゃんが息を吐きながら言う。


「あー、そうかもね。でも悪い大人だったらぱくって食べられちゃうじゃん」と桃ちゃんも言う。


「違うの。私が食べようと」と言いかけた時に注文していたケーキが来た。


 三人とも気まずくなって、黙り込む。ケーキが目の前に並べられて、店員さんが去っていくと、二人は我慢できないと言うように笑い出した。


「絹が? あの絹が?」と奈々ちゃんにいたっては涙まで浮かべている。


「だから、私、変なのかなって。おかしくなったんじゃないかなって」


「落ち着いて。絹は最後までしたかったの?」と桃ちゃんに訊かれる。


 私は頷いた。


 急に奈々ちゃんが深刻な顔をする。


「あのさ。冷静に考えて。その人、学生結婚ってことは…避妊とかしてたの?」


 そのことには思い至らなかったけれど、鈴音ちゃんも妊娠しているということは…と顔色が変わる。


 奈々ちゃんが鞄から、見えないように何かを取り出し、私に渡す。


「持っていなさい。機会があるなしにしろ」と恭しく言う。


 銀色の四角いものを私は眺めた。


「絹、早く鞄に閉まって」と桃ちゃんにも言われる。


「え? あ」とそれが避妊用のゴムだと分かって慌てて落としてしまった。


 急いで拾って鞄に入れる。


「いい? 自分の体は自分で守るの」と桃ちゃんにお母さんのように言われてしまった。


「好きでも子供は今いらないでしょ?」と奈々ちゃんにかぶせて言われた。


 頷いて、私は二人を見る。


「でもさ、キスはするのに、その先しないなんてねぇ」と奈々ちゃんは言う。


「余程いい人か、脈なしか…」と桃ちゃんも首を傾げた。


「両方だと思う。自分でも分かってる」


「絹…」と奈々ちゃんが頭を撫でてくれる。


「そうね。両方だと思うわ。悪い人だったらとっくに事は終わってるもん。絹はそれでもいいの? 脈なしでも…」と桃ちゃんが言う。


「うん。従姉妹の代わりでもいい。夏休みの間に二人で…旅行行くの。その時、したいと思ってる」


 今度は二人は笑わずに頭を抱えた。


「傷つくの分かってるのに送り出せないよ?」と桃ちゃんが言う。


「でも…絹は傷ついてもしたいんでしょ?」と奈々ちゃんが私の代わりに言った。


「うん。好きだから。ごめんなさい」


「桃…」と奈々ちゃんが今度は桃ちゃんを慰めた。


「絹の馬鹿」と桃ちゃんに言われた。


「ごめん」


 友達に心配かけて、親にも内緒で、本当に馬鹿だ。


「それで…」と私が言うと、奈々ちゃんが「アリバイでしょ? いいよ。一緒に旅行行ったことにしとく。日程決まったら教えて」と言ってくれた。


「でもそんなにやる気満々で、またいなされたら大人しく帰ってきなさいよ」と奈々ちゃんが付け加える。


「そういう時に限って、生理が来たりするんだからね。っていうか、生理になれ」と桃ちゃんに呪いをかけられる。


「二人とも、ごめん。ありがとう」と私は頭を下げることしかできなかった。


 なんだかんだと心配されて、愛情を感じる。


「お土産買ってくる」としか言えなくて、二人を見ると、困ったように笑っていた。




 夕方、神社前で三人と待ち合わせする。笙さんは笑顔で手を振ってくれた。


「かわいい」と褒めてくれる。


 自然と、男女ペアに別れてしまった。私はすぐにでも言った方がいいのか、と思うけれど、折角来たのに最初からそんな話をするのも悪い気もした。


「絹ちゃん、先にお参りしよっか」と笙さんが言うから「意外と古風なんですね」と言うと「先に神様に挨拶しなきゃ」と優しく教えてくれる。


「はい。バクテリアが無事に育つようにお祈りします」と言うと「それはいいから」と笑って断られた。


 笙さんは本当に優しくて、人込みも庇って歩いてくれる。無事にお参りして、屋台を見ることにする。


「何か見たいのある? りんご飴とか?」


「どうしてりんご飴なんですか?」


「なんか…似合うし、映える写真になりそうじゃない?」


「いいです。別に…」と私はきょろきょろする。


「何がいいの?」


「たくさんあって、目移りします」と言うと、笑われた。


「絹ちゃんってほんと可愛い」


「え?」


「俺、お腹空いてるからから揚げ買っていい?」と言って、屋台に近づく。


 暑い中、揚げ物を汗かきながら店の人が揚げている。ニンニクの香りが食欲を掻き立てた。


「美味しそうですね」と言うと、笙さんが「一つあげるよ」と言ってお金を払っていた。


 お店の人が紙コップに入ったから揚げに竹串を二本さしてくれる。    


「わー。いい匂い」と言うと、竹串にから揚げを一つ刺してくれた。


「どうぞ。熱そうだから気を付けて」


 フーフーと息を吹きかけながら食べる。熱々だし、ニンニクと醤油の味が染みていて美味しい。


「美味しいですよ」と笙さんを見るとにこにこして、一つも食べていない。


 そして私の竹串を取ると、また一つ刺して渡してくれる。


「え? 食べないんですか?」


「ううん。食べるけど…美味しそうに食べるから」


「美味しいですよ? 食べてください」と言って、はっとした。


「何?」


「私、バクテリアみたいに育てて、観察されてません?」


「あー、そっか。そうかも。うっかり経過観察してしまった」と笙さんが悪気なく言うから、私もちょっとだけ笑ってしまった。


 それで何だか私の気持ちはまた軽くなる。笙さんといると、うっかりペースに飲まれて、気持ちが楽になる。屋台をたくさん梯子して、大分お腹いっぱいになった。


「絹ちゃん、食べ物系の屋台ばっかりだね」と笙さんに言われたけれど、金魚すくいとか持って帰っても育てられない。


「うーん。後、かき氷…」と言うと、本当に笑われてしまった。


「その前に腹ごなしに輪投げでもしよう」


「えー」


 きっと一つも入らない、とは思いつつ、さすがに食べてばっかりなので、その提案を受け入れた。


 輪投げは近そうなのに思ったように入らない。一回だけ入って、大喜びしたものの、景品はほぼ外れのような品物ばかりだった。悩んでハリセンを選ぶ。


「なん…で」と笑いながら笙さんが言う。


「じゃあ、笙さんが頑張って一等賞狙ってくださいよ」と私はハリセンをパンパンと上下に振った。


「見てて」と笙さんが投げるとすんなに棒に入っていく。


 投げられた輪が縦一列並んだ。店主も驚く。


「絹ちゃんが投げるの見てて、輪がどういう軌跡を描くか計算してた」


「さすが理系」と言いながら、私は笙さんを見る。


「だから」と言って、景品はおもちゃの指輪がたくさん入っているハート型のケースを選んだ。


「データ採取に協力してくれた絹ちゃんにあげる」と渡された。


「わあ。懐かしい」と思わず声を上げる。


 小さい頃に買ってもらって、嬉しくて眺めていたおもちゃだった。色とりどりの指輪が並んでいる。


「一番気に入ってるのはどれ?」


「えっと…水色の」


「つけてもいい?」と笙さんがその指輪をそっと取り出す。


 私の指に嵌めてくれた。おもちゃの指輪はかわいらしい。


「綺麗」と私は手をかざした。


「絹ちゃん…」


 そう言われて、笙さんの方を見る。


「友達だからね」


 そう言われて、私は結局、何も話すことができなかった。


「…ハリセン、いりますか?」


「もらおうかな」と笑顔を見せてくれた。


 みんなで鳥居の前で集合する。


「ご飯食べに行く?」と奈々ちゃんが言うけれど、私はお腹いっぱいで何も入りそうにない。


 それを知っている笙さんが笑いながら「俺、今から研究室に戻るわ」と言った。


「えー?」とみんなが言うけど「また誘って」と笙さんが私の手を取って、輪を抜けた。


「え?」と思って、笙さんを見ると


「駅まで行こう。俺、本当に戻らないと…だし。絹ちゃん、それ以上、何食べるの?」とお腹いっぱいの私を見る。


「あ、うん。お腹苦しい」


「ごめん」と言って、手を離された。


「あ、こちらこそ」と変な事を言ってしまう。


「でも楽しかった。なんか、久しぶりに遊んだなぁ」と笙さんが言う。


「笙さん、大変なんですね」


「うん。まぁ…でも頑張ってやってることがいつか人の役に立つと思うから」と真っ直ぐな目で言われる。


 心から素敵な人だと思うのに、どうして好きにはならないんだろう。本当に自分でも分からない。


「応援してますね」


「ありがと。やる気でたわ」と言ってくれる。


 こんなどうしようもない私の一言で、そんな風に思ってくれるのが申し訳なく感じてしまう。


「私も…自分の先を考えないと」と呟いた。


「就職?」


「はい。出版社とかいいなぁって…憧れてましたけど、今、笙さんの話を聞いて、私も人に役立つ仕事してみたくなりました」


 笙さんは笑いながら「出版社も役に立ってると思うよ」と言う。


「ミーハーな気持ちだったんです」と言うと「正直だな」とまた笑われた。


 駅に着くとホームが反対らしく


「じゃあ…。あ、浴衣、すごくかわいくて似合ってる」と言って手を振って去っていった。


 そう言われて、嬉しくて…私は本当に悪いと思うのだけれど、そのまま翠さんのアパートに向かった。一目見てもらいたいと思って。


 

 からんころん下駄の音がなるべくしないようにしながら、アパートの外階段を上がる。灯りが付いているので、翠さんが中にいる。インターフォンを鳴らした。


 扉が開くと、翠さんが驚いた顔を見せる。


「こんばんは」と言うと、後ろから誰かの足音が聞こえた。


「あ、こんばんは。浴衣…」と翠さんが言うと、足音の犯人が翠さんの横から顔を出す。


 小さなハーフの男の子だった。


「だれ?」とその男の子が翠さんに訊く。


「友達だよ」


「ふーん。じゃあ、入ってもらおう」と男の子が言う。


「…息子のれん。入って」と翠さんが私に言った。


 奥さん、外国人だったんだ、と私は心の中で思ったが言い出せなかった。


「パパー、ここ難しい」と漣君はレゴを翠さんに渡している。


「あ、私、すぐお暇します」と言うと「いいよ。せっかく来たんだから、座って。何か飲む?」と言われた。


 私は漣君のレゴを覗き込んだ。


「できる?」


「ちょっと待ってね。解説みたら分かると思う」と作り方の冊子を見る。


「ここまでできたでしょ? えっと…」


「パパお家作る人だよ。本物のお家」と漣君は教えてくれる。


「すごいねぇ」


「僕はまだ子供だから、ブロックでお家作る」と言って、違うブロックを嵌めようとする。


「あー、待って。それじゃなくて…えっと、これ、ここ」と私は解説書通りに指示した。


「そっかぁ」と素直に漣君は従ってくれる。


 簡単そうに見えたけれど、なかなか難しい。私が漣君とレゴを作っている間に翠さんはアイスティを作ってくれた。


「漣、お茶は?」


「いらなーい」


「アイス食べるか?」


「うーん。後で」と漣君はレゴに夢中だ。


 薄い茶色毛と琥珀のような色の目をしている。まさか翠さんの奥さんが外国人だったとは思いもしなくて、私は驚いた。


「お姉さん、名前は?」


「名前? 絹」


「絹? きぬ? それだけ?」


「うん」


 それっきりブロックにかかりっきりになったけど、また顔をあげて「きぬちゃん、ここ、はめて。固い」とか、名前で呼んでくれて、それが可愛くて、正直、胸がきゅんとなった。


「きぬもそれはちょっと無理かなぁ」とからかいたくなって、乳母になった気持ちで言ってみると「えー」と言いながら、格闘する。


 その様子も可愛い。もう本当に乳母になりたい、とすら思った。


「きぬちゃん、大人なのに力ないんだなぁ」と嵌ったブロックを得意げに見せる。


(わぁ、可愛い)と思わず大絶賛しそうになる。


 気持ちを抑えるように口に手を当てた時、


「きぬちゃん、指輪? 綺麗」と言われてしまった。


 おもちゃの指輪をずっと嵌めっぱなしだった。


「これねぇ。おもちゃなの。いる?」と鞄から指輪のケースを出すと、漣君の目が輝いた。


 その瞬間、私は目を疑った。ケースにくっついてた銀色のフィルムに入った避妊具が床に落ちたのだ。慌てて拾って鞄に戻す。なんてものを漣君にさらしているのだと焦ったが、漣君は全く気にせず、指輪を眺めている。


「綺麗。ここから一つ、もらっていいの?」


「いいよ」


「じゃあ、赤いのもらっていい? ママ、赤色好きだから」


「ママにあげるの?」


「うん。ママ大好きだから」


 胸が苦しくなる。


「きっとママ、喜ぶね」


「うん。ありがと」と笑顔を見せてくれて、私は本当に胸が潰れそうだった。


「絹ちゃん、アイスティ」と翠さんに声を掛けられた。


「アイス食べる―」と漣君も言う。


 二人でテーブルに着くと、翠さんが用意してくれた。


「絹ちゃんも食べる?」とアイスを見せてくれたけれど、断った。


 本当にお腹が苦しい。漣君は美味しそうにアイスを食べている。


「仕事の飲み会があるから、預かってて。遅くなるなら、泊まらせようかと思ってたんだけど、さっき終わったから迎えにくるって連絡があった」と翠さんが教えてくれた。


「あ、じゃあ、私…そろそろ」と腰を上げると、漣君に引き留められた。


「まだ遊ぼう」


「でも…」


「後少しだけ」と淋しそうな顔を見せられたら断れなかった。


 漣君のママは外国の人だからきっと気にしないのかもしれない、と私は思って、残ることにした。それに元の奥さんをこっそり見たいという気持ちもあった。


 漣君としばらく遊んでいると、インターフォンが鳴った。英語で挨拶するべきなのだろうか、と咄嗟にいろんなことが頭をよぎる。


「ママだ」と駆け足で玄関に向かう。


 私はレゴを綺麗に袋に詰めた。何か話し声がしているけれど、何を言ってるのか分からない。ただかなり流暢な日本語だった。日本で生まれ育ったのかもしれないといろんな想像をしつつ、レゴの袋をどうしたものかと悩む。


「きーぬーちゃん」と漣の声がする。


 覚悟を決めて、私は立ち上がる。レゴを入れた袋を持って玄関まで行った。玄関に綺麗な黒髪ロングヘアの女性が立っている。漣のお母さんはどう見ても同じアジア人にしか見えなかった。


「…え。すず…」と驚いた顔をしてその人は私を見た。


 漣君は「ママー、絹ちゃんだよ。パパのお友達」と言った。


「そう」と言って私の顔をじっと見る。


 翠さんは「鈴音の従姉妹の絹さん」と紹介してくれた。


 何も言わずに見られ続けているから


「…こんばんは」としか言えない。


 元奥さんの視線を感じながら、漣君にレゴの袋を渡して、私は小さく手を振った。


「そっくり…なのね」とようやく言われた。


「…はい」と俯く。


 何度か頷いて、


「じゃあ」とそれだけ言って、出て行った。


 何度も漣君は最後まで手を振ってくれる。二人を見送ると、私は力が抜けて玄関でへたり込んでしまった。


「ごめん。大丈夫?」と翠さんが横でしゃがんでくれる。 


「…奥さん。綺麗な人」としか言えなかった。


 そして翠さんは「漣とは血が繋がってないんだ」と言った。


 声も出ずに、翠さんを見上げる。


「戸籍上では俺の子どもになってる」


 漣君は翠さんに懐いていた。奥さんが妊娠して、学生結婚をしたと聞いていた。訳が分からなくて、私は翠さんを見た。


「アイスティ残ってるけど…話、聞きたい?」


 知りたかった。何があったのか。


 鈴音ちゃんと翠さんとそしてあの元奥さんの間に――。

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