第92話

藍は、いきなり私の肩と膝裏へと手と腕を回し抱き抱えるようにして海の中へと入って行く。


「首に腕回せ」


耳元で囁かれるその擽ったさなどもはや気にならない。


「らん、なにすん…冷た」


もはや驚きすぎて会話もままならない。


そのなくなる重力に不安になり咄嗟に藍の首へと腕を回す。



「らん」


藍の身長で、肩ぐらいの深さまできている。


もう、全身に感じる海水の冷たさなどどうだっていい。


私はここで離されたら絶対に足はつかないことぐらい想像がつくその不安でいっぱいだった。


「今、絶対離さないで」


ギュッと力を込めて私は懇願する。


微かに、藍の肩が上がるのが分かった。



「…あぁ」


私に応えるかのように、


私を抱き抱えるその腕に力がさらに籠った気がする



「絶対、離さない」



広い海の中で、静かに、私の耳元でそのテノールボイスは囁いた。


とても、力強く。

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