第79話

それだけか。


人形のように着せ替えばかりさせておいてそれだけか。


ムッと私は頬を膨らませ、


「着替える」


そうカーテンを閉じようとした。


「待て」


カーテンを掴むその手をギュッと握られれば、奴は私を試着室の外へと引っ張った。


バランスが上手く取れず崩れそうになる私の腰元へ奴の腕が回る。


ー「きゃあ!」


女達の悲鳴が微かに響いた。



「これの会計を頼む」


近くに居た女へそう頼めば、奴は私の手を握ったまま案内される方へと足を進めた。




ついでにサービスだとかで女達から、薄手の水着用パーカーを貰う。


真っ先に甲斐甲斐しく藍にそれを着せさせられるが、前のチャックは窮屈だから開けたままにしておいた。


奴は頑なに前を閉めろとうるさかったが。



半歩後ろで煙草を吸わせながらダラダラと歩く藍に気にせず私は、奴らのいるパラソルの下まで駆け寄った。



「あ〜!りなちゃん!水着は着れ…た…っ!!!!」



最初こそいつものように勢いの良かった口調が最後の方は穴の空いた風船のように徐々に萎んでいった。

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