第75話

無表情のままを貫く藍がここでゆっくりと口を開いた。


私の腕を掴み、女達の前になるようにして。


「コイツに似合った上等なもの選んでやってくれ」


一瞬、私を見やった女たちは動きが止まった。


ぱちぱちと、目が開いては閉じての繰り返しだ。



そのまま少し遅れて、その極上級の藍に相応しいようなテノールボイスを聞き入った女たちは更に顔を赤く染めらせる。


「藍、」


別に私はいいのに、


そんな思いも含めて藍の腕をきゅっと触れるぐらいの力で掴む。



先程とは反対に、今度は私が奴を下から見上げるようにして訴えかける。


「いいだろ、偶には」


本当に添えるぐらいの、小さな笑みを極上級のその顔に形作る。


私の背に空いている方の腕がそっと回る。



スっとまた一瞬、この空間が止まるような静けさになった。


「綺麗なもん選んでもらえ」


私だけに向けられるその表情とテノールボイスがこんなにも甘いと、私は首を横に振る事は不可能に近い。



何も言わずに私は女たちの方を見れば、


少しばかりの悔しさと羨ましさ混じりの引き攣った笑みを浮かべている。


「か、かしこまりました〜!」


女達の中の1人のその言葉を合図になり、周囲がとてつもなく騒がしくなった。

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