第55話

GSA ジェネラル セクシャル アトラクション 


 莉里が目が覚めて、水を飲もうとベッドから出るけれど、ふらふらしている。昨夜はちょっと激しくしてしまったかもしれない。でも莉里、少しも拒否しなかったしな、と俺が代わりに水を取って来て、飲ませる。かわいい唇がコップについて、水を飲んでいるのを見るだけで、欲情してしまう。それで昨日もいろいろし過ぎてしまったのに、莉里は少しも怒らない。


 莉里が飲んだコップをキッチンに戻して、またベッドに戻って、莉里の上にのしかかったら、すぐに受け入れようとする。莉里の意思っていうより、俺の気持ちを優先させるから、何だか嫉妬してキスで口を塞いでしまった。


(他の人と付き合ってもきっと同じようなんだろうな)と妄想の男と莉里に対して苛立ちを覚える。


 いつも受け入れてくれるんだけれど、それがなんとも不安になる。そんなことを考えていると、莉里は誤解し始める。自分の経験不足により俺を満足させられていないのか、とか体が豊満な方がいいのか、とか全く違う方向に拗れていったから、笑ってしまった。


「すごく好きなのに? あっさりしてた?」と言って、かわいい唇をつけてくれる。


 ちょっとずつ入ってくる舌が遠慮がちで、可愛い。一生懸命俺の舌を探すから、胸が縮まる。俺も舌先を合わせると、莉里は様子を見るように、でも一生懸命、好きって言う気持ちを伝えようとしてくる。眩暈がしそうなくらい可愛い。


 いいのかな。俺で。


 可愛いキスを堪能した後、莉里に後悔していないか聞いてみた。そしたら莉里はGSAという言葉を知っているか、と聞いてくる。GSAジェネラルセクシュアルアトラクションは幼い頃にいっしょに過ごさなかった姉弟、兄妹が強く惹かれる現象だと教えてくれた。


 どうやらその現象で自分たちが惹かれあっているのではないか、と莉里は不安に思っているようだった。


 莉里は綺麗で可愛い姉で、優しいから、きっと異性にもてる。本人の自覚はないだろうけれど、大抵の男は彼女にしたいと思う。だからそのGSAで莉里が俺を好きになってくれているのなら、なにもせずにラッキーだと思う。それを伝えると、拍子抜けした顔をした。


 莉里は俺が莉里を好きになったのはそういう遺伝子の仕組みで好きになっただけで、気持ちではないのかもしれない、と悩んでいたのかもしれない。


「ねぇ、莉里。心配しなくていいよ。莉里は誰からも好かれるから。俺に限らず」


「え?」


「だから、GSAであろうが、そうでなかろうが、俺は莉里に会ったら絶対好きになってた」と自信たっぷりに言うと、莉里は素直に目を丸くした。


「それより、莉里が罪悪感で付き合ってくれてるのかと思った」


 莉里が俺のことを後悔していて、かわいそうに思ってくれてるから、セックスでも何でも受け入れてくれてるんじゃないかと思った、と言うと怒られた。


 それでもうどうでもいい話になって、二人で旅して音楽して、踊ってお金を稼いで暮らそうなんて話をしていた。俺がアコーディオンを弾いて、莉里が踊る。きっとかわいいだろうな、と想像したら楽しくなる。




 そんな楽しい話を中断する早朝の日本からの電話。あの人が区切りをつけにくるらしい。


 莉里が電話を横の棚に置こうとして、落としてしまう。拾いもせずにベッドにうずくまった。


「莉里…。心配しないで」


「…うん」


 心細い返事だったから、うずくまる背中から抱き寄せた。


「うまく行くようにするから」


 何の策もないのにそう言った。遅かれ早かれ、こうなることは覚悟をしていた。だから祖母から送金もしてもらっている。莉里を離すつもりはない。


「私も…ちゃんと…分かってもらいたいから…」


「うん」


(でもそれは無理だ。あの人が受け入れるはずない)


 莉里には酷なことになるけど、家族と縁を切ることになる。そんなことをさせてまでも手放せなない。

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