第60話

「慧さん、仕事中だったろ。悪いな」


「よかよか、気にするな」


ぐしゃッとガラステーブルに置かれてる灰皿に煙草を押し潰しながら、椿はその着物を身に纏う男にそう声をかける。


チームのNO.2の椿が、゛慧さん゛とさん付けされるこの男。


「穣さんも、ここまで来るに手荒なマネされなかったかの」


方言とも言えない、本当に独特の喋り方。


この場の雰囲気とも似つかわしくなく、身なりは完全不良からかけ離れている。


焦げ茶がかった襟足の短い髪型に、中性的な造り整えられた容姿、

着物から見えるほっそりとした長い首元、ひとつひとつの動作がとても丁寧で、

優しそうに目じりを下げて笑うその表情が、この中にいる奴らの中で一番落ち着いた優しい雰囲気は持っているのかもしれない。


藍や椿とはまた違う、緊張感の走る雰囲気が少しだけ気になる。



「紫吹 慧二郎じゃき。仲良うしてな」


着物の袖からスラッとした手を私に差し出してくれる。


独特の喋り方で爽やかな優しげな雰囲気を持つ、

紫吹 慧二郎 (しぶき けいじろう)



男でここまで着物を着こなせる奴はなかなか見ない。

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