第52話

車内には、運転手と私達3人。


誰も喋ることはない為、静かな時間が続く。



ボーッと私はフロントガラスに映る景色を見つめる。


どこに向かってんのか知らないが、段々と街中から抜けて人通りの少ない住宅街へ、更にその先を進んでいる。



「五十嵐くんと祠堂くんは、いまなにしてるか分かってる?」

フロントガラスに視線を向けたまま、両サイドと2人に向かってそう質問した。


「誘拐だろ」


その質問に対し、祠堂椿がそう答える。


ッチ。

確信犯か。



「名前も知らない女にキスしたり誘拐したり、それって趣味でやってんの」


「随分強気でくる女だな」


グイ。

祠堂椿が私の腰を自分の方へ引き寄せるせいで少しだけ姿勢が崩れる。


挑発するかのように、腰に当てたその手は焦らすように撫で始める。



「篠原 里奈子だろ。知ってる」


車という狭い空間のせいで、腰を引き寄せられた状態だと上手く姿勢が保てない。


祠堂椿の胸元辺りに手を置く。


そのまま奴を見上げるように私は睨む。


「他人って感じでももうねーんだから名前、呼び捨てでどーぞ」


「祠堂 椿」


「それじゃフルネームだろ。苗字いらねーよ」


いちいちめんどくさい奴だ。

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