第33話

「シノハラさん、さっき授業サボってアイツらの喧嘩見てたでしょ」


こいつ、知ってたのか


再度富浦亜貴の方へ視線を戻す。

笑ってんのに笑ってない、絶対零度の冷えきった瞳、表情。



「で、それがどうしたの」

私が好んで見てた訳でもない。

一瞬定時制の2人を思い出すが説明すんのもめんどくさい。


こいつのその眼と指に解放されたい。



妖しげに口元を上げると、パッと私の顎を持ち上げてた手を離す。


「編入初日からサボりなんてとんだおてんばさんだな〜って」

「…午後はサボってない」

「お〜偉いじゃねぇの〜」

なんてお気楽に話すやつだ。


「もう用はないでしょ。帰っていいの」

「あぁ。別に偶然見かけたから話しかけただけだしな〜」


嘘。


ーー゛「シノハラさん、さっき授業サボってアイツらの喧嘩見てたでしょ」゛


この言葉を言いたくて、故意的に待ち伏せしてたんでしょ。


別に本人には言わないが。



「じゃあ、また明日ね。シノハラさん」

崩れることの無い彼の妖しげな色っぽい笑みを見届け私は背を向ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る