第5話
「リナさん、約束の時刻は過ぎてますよ」
「うるさい。誰も迎えよこせなんて言ってない」
遠慮なしに高級車の助手席に乗り込む私に、早々と嫌味を放つそいつ。
そもそも私は約束なんかしてない。
そう思いながら私は口をへの字に曲げる。
大体、あいつが勝手に8時には私の隣、運転席に座る奴を迎えに行かせてる旨を、メールで送ってきただけだ。
「編入初日早々から遅刻なんて笑えないです」
静かにエンジンをかけつつ、私の手に持っているカバンをそっと後ろの席へ置く。
この様子だと、上から面倒見るようにと頼まれてるんだろう。
「シロが頑張ってくれたら遅刻しなくて済む」
「意地悪いですね」
ハハッとさっきより少しだけトーンの明るい声を出すそいつ。恐らく、いや絶対に自分より歳下であろう私にさん付けをし敬語を使う、シロ。
きっと徹夜でアイツの世話をしていた上、私の迎えまで命じられたであろう、不憫で仕方ない。
ゆっくりアクセルを踏み走り出す車。
運転をしてくれてるのは、シロ…白那(シロナ)。
年齢、本名不詳。
この家の関係者なら多々ある話だから今更気にしたこともない。
緩やかにウェーブのかかる黒髪と底深い暗く黒い瞳に、それに対比されたように透き通るような白い肌は彼の綺麗で端正な顔立ちをより一層際立たせる。
誰が見ても、彼のことを綺麗だ思うだろう。
シロの生い立ちを全て知っているわけではないが、『 シロはハーフなんだよ』と過去に一度だけ耳にしたことがある。
本人から直接聞いたわけではないが、確かに日本人離れした顔の造りではある。
「見すぎです、リナさん」
運転しているからか、目線はしっかりと前に向けているシロは少々苦笑の表情浮かべる。
そんな見てたか、私。
「悪い」
「いいえ。珍しいので意外にも照れました」
「あっそ」
くすくす意地悪い笑いをする奴を少しだけ睨み、再び窓の方を見る。
車の窓ガラスに反射して映る自分の制服姿がまるで別の人を見ているみたいだ。
キュッと、自分の首元にかかる指定のリボンに触れる。
「気に入りましたか、その制服」
「別に。どうでもいい」
どうせ2年間だけだし。
私は出された条件に従うだけ。
あと少しで20歳になる私には、少しだけ遅めの学生生活が始まるだけだ。
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