第27話

接近の理由わけ


「自分可愛さ?」と中崎さんは不思議そうに聞く。


「はい。中崎さんはモテるから…、女子社員に睨まれるのが嫌で、距離を空けてました。後、その他、生き霊さんにも…。生き霊って強いから」と私は言った。


 でも私はそれだけじゃない。それを跳ね除けられるほど、人を好きになるのが怖かった。


「そっか。それなのに…追いかけ回してごめん」


「いえ…。私が避けてたから…ごめんなさい」


「どうして十子ちゃんが謝るの?」


「だって…」


 好きになりたいのに、私はまだ恋をするのが怖い。一度もしたことのない恋を、中崎さんとはできない気がする。彼だけじゃないけれど、誰かを好きになることが怖い。友達もうまく作れなかったのに…。


「僕は…まだ嘘をついてる」


「え?」


 一瞬、私は立ち止まった。木漏れ日が道の上にちらちらと揺れている。中崎さんの前髪を風が揺らす。


「君を…知りたい」


(だめだ)


「あんなことをしてまで…君と距離を近づけようと思ったのは」


(だめだ だめだ)


「やっぱり君のこと気になったから」


(…好きになってしまったら)


「でも…自分に自信がないんだ」


「え? 中崎さんが?」


 誰からも愛される中崎さんが? と私は思わず顔をまじまじと見た。パーフェクトな顔がそこにあるのに。


「さっきも言ったけど、僕はもしかしたら小さい女の子を…妹かもしれない子を…自分が…例えば見殺しじゃなくて、川に突き落としたかもしれない…そんなことを考えると、誰も愛してはいけない気がして」


 記憶がないと言うのは本当に恐ろしい。


「そんなはずないです。だって誰にも親切だし」


「…そうしなければってずっと思ってた。引き取られて、優しくしてもらえたけど、良い子じゃなければ…って常に考えてて…。だからずっと人には親切になろうって。でもそう思うのは自分に対して自信がないから…なんだけど」


 誰にも優しい中崎さんができたのは自分への不信感が原因だった。


「中崎さん…。大丈夫です。中崎さんが思ってるような不安なこと…ないです。私、知ってるんです。駅の売店のおばちゃんが…困ってたのを助けてあげたこととか…」


「助ける?」


「中崎さんは覚えてないかもしれないですけど、とっても感謝してました。なんか態度悪いおじさんに長々と怒られてて、そこに割って入ってくれたって」


「…あ。あぁ…。十子ちゃん、本当に見えるんだね」


「はい…。生き霊のおばちゃんが私に教えてくれました」と言うと、微妙な顔で中崎さんが笑う。


 私は中崎さんを大好きな人がたくさんいることを伝えた。誰からも愛される人だと言うことを。そして私はそれが少し羨ましかった、と言った。


「だから太陽みたいにいつもきらきらしてて…」と私が一生懸命言うと、中崎さんは視線を逸らしてため息をついた。


「そう…見えてたのなら…安心した」


 シスターズがいない中崎さんはどこか心もとない感じがする。


「本当に僕は…ずっと自分が一体、誰なのか分からないまま…いまだに病院で目が覚めた時のままの成長していない気がしてる」


 小さい中崎さん…ふっと浮かんで消えた。


「でも、まずは十子ちゃんのお手伝いさせて」と言って、笑ってくれる。


「はい。お願いします」


 遠くから吉永さんと梶先輩が手を振っている。大分、待たせているようだ。私たちは手を振りかえした後、ゆっくりと歩いた。

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