第33話

部屋から出ると、了を待ち構えたいたのは了と同じくらい美しい姿をした男だった。


二重の大きな薄茶色の瞳に、柔らかな亜麻色の髪。スッと通った鼻筋はどこか了にも似ている。


だが、その柔らかな瞳の色からは想像出来ない程、射抜くような視線で彼は了を睨みつける。







「礼なんて言わないからな」






怒りと憎しみに満ち溢れた声に了は何も応えない。






「影郎(かげろう)め-------」






男の言葉を見に受けてただ一度、こうべを垂れ了はその場を後にした。







男はその姿が見えなくなっても、了の跡を追うようにその背中を睨みつけた。

固く拳を握ると、爪は手のひらに食い込み血が滲む程だった。




ひとつ、呼吸をつき気持ちを落ち着かせる。

この扉の向こうには、最愛の恋人がいるのだから。

そう思うと自然と表情は溶け、やわらかな面持ちへと変わる。






決して触れる事は出来なくても----------








悲しみをぐっと堪え、男は小鳥のいる部屋のドアノブに手を置く。

ノックを2回してドアを開けると、世界中で1番愛おしい彼女が笑顔で男を待っている。








もう一度、ふわり。



風が吹いた。







屋敷の外では、千年桜が風に吹かれケラケラと規則正しく揺れていた。

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