第30話
「…っ…あっ」
口付けも愛撫もないその行為は、実に悲しいものだった。
ただただベッドが軋むだけ。
「っ…」
苦しそうに、息を荒げながら彼女が呟く。
「…紫鶴」
その瞳には薄っすらと涙が滲んでいる。
「…すまない、小鳥」
了は、悲しみに満ちた顔で彼女を抱く。
彼女の透明感のある真っ白な肌に、了は顔を埋めた。
泣き声にも似た彼女の声は部屋の外まで届いた。
情事が終わると、小鳥の顔色はみるみるうちに血色が良くなり冷たかった肌も温もりを取り戻しているようだった。
そして身体中に蛇のように渦巻いていた痣もいつのまにか消えていた。
「ごめんね、了」
「謝るな。お前が悪いわけじゃない」
衣服を正しながら了が応える。
「でも…」
「これは、俺の母親が犯した罪。俺は死ぬまでこれを------------影の役割を果たす」
「…了」
悲哀に満ちた瞳で、小鳥は了を見つめる。
小鳥は脱がされた衣服をゆっくりと羽織ると、了に近づきその口元に触れた。
「唇、切れてる」
「あぁ」
「どうしたの?また…おじさま?」
小鳥が差し出した手を取り、痣が無くなったのを確認するように見ると了はそれをゆっくり戻した。
「いや。学校のヤツだ」
「学校上手くいってないの?もし、辛いようならわたしからおばさまに取り計らって頂けないか訊いてみるわ」
了はフッと小さく笑う。
「やめとけ。あの人が俺の為に動くわけが無い。お前の立場が悪くなるだけだ」
「でも…」
「俺の事は気にしなくていい。お前は生きる事だけ考えてろ」
「…了。こんな事、いつまで続けていくの?こんなのきっと良くないわ。人様から命をもらい、了を苦しめて…。あのね、了、もうわたし----------」
「じゃあ行くわ」
ぽんっとひとつ、撫でるように小鳥の頭に手を置くと、了は部屋のドアノブに手をかける。
漆黒の瞳には一縷の光も無い。
小鳥には彼の痛みが見て取れる程伝わっていた。
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