第22話

「よーし、皆んな席につけ」


担任の教師、櫻井先生が8時40分のチャイム丁度に入ってきて教壇に立つ。

櫻井先生は、50代の男性教師で時間や締め切りを守るきちっとしたイメージ。落ち着いた印象で、男子生徒女子生徒問わず信頼の厚い先生だ。


「えー、今日は嵐で雨風が強かったが皆んなちゃんと来れてるか?」


「先生、◯◯線が強風で遅れているみたいです」


「そうか、じゃあ何人か遅刻がいるんだな」





さすが櫻井先生。

今日も時間ぴったりだ。

バッグを取りに行くのは朝礼が終わってからにしよう。


「今日の1限の物理だが、小テストがあるようだ。みんなしっかり時間まで準備するように」


「えーーーーー!」


揃えたかのように悲鳴にも似た声が教室内に響き渡る。物理の戸田先生はよく抜き打ちテストをやるから、生徒からは嫌がられていた。


「皆んな静かに出席を取るぞ」







そんな、よくある、いつも通りの朝礼の風景。

そう、よくあるいつも通りの---------







でも-------------



 




「よし、遅刻は電車遅延で田中と牧田だな」








------------違っていた。






「えー、あともう一つ。今日は皆んなに紹介したい人がいる。さ、入ってくれ」






一瞬で空気を変える。


その誰にも似つかわしくない彼特有のオーラはどこか神秘的にも思えた。





「きゃぁ!」「カッコいいー!」と、ざわつくクラスメイト達の声を浴びながら、開いたドアから入って来たのは-------





もう、2度と会いたくない彼だった。








「あっ!」





図書室のあの男…

思わず声が漏れてしまい、慌てて口を押さえる。


「何だ崎本、知り合いか?」



すると、女子達が一斉になってこちらを見る。

みんなイケメンの彼に少しでもお近づきになりたいのだろう。


「…いえ」


慌てて否定すると、もうわたしには興味なしといった具合に彼に向き直った。


スラリと伸びた足が規則正しく歩みを進める。

その完璧なルックスに、女子は一斉に色めき立った。


こんな言い方したら申し訳ないけど、確かに、櫻井先生の横に立つと、より彼の腰の高さや切れ長の黒い瞳など美しさが引き立つ。

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