第21話

「ねぇ、千生知ってる?」



この笑みは愛里が謎の情報網で手に入れた秘密を教えてくれるときの顔。


「何が?」


「それがね、ものすごいイケメンが転校してきたんだって」


愛里は自慢げに手にした情報を披露する。

わたしはそんなに恋とか興味が薄いから、「へぇ、そうなんだ」と椅子に腰掛けながらそれとなく返事をした。



「もう千生ってばこうゆう話しても全然食い付いてくれない!」


「そんな事ないよ」


「ううん、千生は恋バナ興味なしだもん。高1だよ!青春だよ!今恋しなくていつするの?!」






正直、恋というものがわたしにはまだよくわからない。




もちろん、過去にかっこいいな、素敵だなと思った人はいる。でも別に彼女になりたいとか付き合いたいだとかそういった想いが生まれた事は無い。


愛里の言う通り、他の女子達も口を開けば◯◯くんがかっこいいとかこそこそと話しているのを目にする。


わたしは少し、変わっているのかもしれない。



「大人になってから…とか?」


あっさり応えると、愛里は驚いた様子で目を大きく見開いた。


「大人っ?!そんなんありえない!!制服デートも放課後デートも出来ないじゃん!今だから出来る事っていっぱいあるんだから!」


「うーん…よくわかんないや」






不満げにぶーぶー口を尖らせている愛里に「ごめんごめん」と軽い謝罪をすると、愛里は何か気付いたようでわたしの手元に視線を向ける。


「あのさ千生」


「ん?」


今度は何かと耳を傾けると、愛里はわたしに不思議そうにこう呟いた。






「バッグは?」


「え?」


その言葉にハッとさせられる。


どうして気付かなかったのだろう。

そう。謎の男に襲われかけて…そのまま図書室に忘れてきてしまったのだ。



「…わすれた」


「え?!かばん忘れて学校来るって、そんなことある?」


「どうしよう…」


「電車に忘れたの?それなら早く駅に電話しなきゃ!ケータイとかも入ってるんでしょ?」


「うん。でも多分忘れたの図書室」


愛里が不可解な顔で応える。


「図書室?!あんな落ち着いた場所で?一体何してたのよ?」




まだ、あの男がいるかもしれない。

そう思うと、足が重い。

でも、行かないと財布やスマホ、教科書からノートまで全部入ってるし…。


「わたし、取りに行ってくるわ」



決意したのも束の間、朝礼を知らせるチャイムが鳴った。

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