第16話

わたしはその地を裂くような轟に思わず声を上げてしまった。

ハッとして2人に目をやると既に口づけは終わっていて、水橋先輩は眉間に皺を寄せ気まずそうにわたしを見ている。




「あ…お、おはようございます」


必死で振り絞り出した言葉はそんな間抜けな挨拶だった。


「あなた…」


水橋先輩は少し不機嫌そうな顔でわたしの瞳を射抜く。その視線が辛い。

キス現場を目撃…いや、そんなつもりはなかったが結論、盗み見してしまったのだ。それは怒っても当たり前だろう。


「…えと…あの、な、なんてゆうか…ぜったい、だれにも言いません!」


すると水橋先輩は近くの椅子に置いてあったバッグを攫うように手に取ると、早足でわたしの横を通り過ぎて行った。


「あっ!先輩!待って…」


言葉を放ってみたものの、水橋先輩は図書室から出て行ってしまった。





残されたのはわたしと…









ゆっくり向き直ると、男が仁王立ちでこちらを見ていた。


「あっ、あのわたしこれでも口は堅い方なので、ご心配なさらず…」


ペラペラと早口で喋っていたのに、その先の言葉が出てこなかったのは、名も知らぬ男の顔を見たからだ。思わず見惚れてしまった。




スラッとした背丈に黒い髪。

切れ長の黒い瞳に鼻筋が通っていて。その唇は薄く…。この唇がさっきまでキスしてたんだと思うと何故かわたしの頬が熱くなってきた。




「…ほんとうに、ごめんなさい。わたしどこか行きますね」



そう告げて立ちあがろうとした時、


「痛っ!」

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