第8話

目覚ましのアラームが鳴るよりも1時間も早くベッドから起き上がったのは、夢を見ていたからだろうか。


私は身支度を整えると部屋を出た。


「おはよう、お母さん」


「あら千生(ちお)、今日は早いのね」


「うん、何だか目が覚めちゃって」


お母さんは看護師の仕事をしている。


私に父と呼べる人はいない。

私が幼い頃、病気で死んでしまったそうだ。

赤ちゃんの時だったから、父の記憶は全く無い。

それからは、お母さんがシングルマザーとして慌ただしい日々の中私を育ててくれた。


「朝ごはん食べる?いるならすぐ作るけど」


「大丈夫。今日は何だか食欲が無くて…」


「そう。でも、お昼はちゃんと食べなさいよ。お弁当作ってあるから」


そう言われて覗き込んだら、お肉と野菜がバランスよく詰められたお弁当箱があった。


忙しいのに、作ってくれたんだ…でも…


「…ありがとう」


私は貼り付けた笑顔をみせると、包んだお弁当をバッグに入れる。


「いってらっしゃい」


お母さんは流し台で洗い物をしながら慌ただしくしていた。わたしを見る事はない。

本人はそんなつもりはないんだろうけど、目が合わないという事は、わたしに興味ないのかなとか思ってしまう。

せっかくお弁当作ってくれてるのに…


水道の水がシンクに当たる音が響いている。


「…いってきます」


わたしのか細い声はお母さんに届いただろうか。

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