第71話
悠にとっては体感は10分以上、悠以外のその場にいる者たちにとってはたった一分程度経ち、扉が消えかけた頃、廊下が騒がしくなり声が聞こえた。
「あーあ・・ばっれちゃったみたいだね。悠ちゃん」
『理事長!』
その場にいる男子の声が重なる。そう、この場を収めるためにやってきた理事長だった。
「すみませんでした。ばれないようにするって半ば無理やり押し切ったのに・・・」
「いや・・・僕もだめだったね。選択を間違えたよ。・・・悠ちゃん」
「・・・分かってますよ」
理事長がその場を収め始めるのに安堵しつつ未だきつく握られ痛みすら感じる右手を見る。
「翔ちゃん・・・離して」
「それはできない。私情を持ち込むとこうなるんだ。・・・きついことを言うようだけどな。俺たちは悪魔を倒すのが任務、宿命みたいなものなんだ。俺はここを任されている。わかるよな?」
「その任されている立場の翔ちゃんもジーンのこと知ってたくせに」
「それは・・・」
これは八つ当たり。翔ちゃんにただ八つ当たりしているだけだ。
また、また一人いなくなっていく
「また・・・・居なくなっちゃったな・・・」
「悠?」
「いや・・・何でもない」
「悠・・」
頭の中がぐちゃぐちゃだ・・・
「・・・今回の交流会は中止だよ。女子高のみんなを転移で集合場所まで送るんだよ~。わかる女子高の子たちは自分で体育館に集まってね~」
・・・・もう
「駄目だ」
私は翔ちゃんの手を払い窓に駆け寄った
「悠!」
まだ微かにジーンの残した気配が粒子となって留まってる。・・・誰にも近づけさせない!
「ゲートは閉ざされた。粒子舞う痕跡を追え。その姿を映し繋ぎ眼から脳裏へ繋げ。粒子繋ぐ眼ーミラーアイー」
見たことがあるだけだった。粒子に残ったものの残像を凝縮し、痕跡をたどりまるで鏡に映し出すようにして脳内へ直接映像化させる術。魔界にいた頃に大体どれも禁忌だったけど、その場限りしか使えない術。
「お前その呪文っ!?またかよ!」
力が低い場合、脳内に後遺症が残る可能性があり力の強いものでも使用すると三日は激しい頭痛が止まらなくなることから禁忌とされている術だ。・・・悠に当てはまるものではないが通常使っていい術ではないことは明白だ
「その呪文は禁術だ」
「知ってるよ。」
「しっ!?ならなおさらだろ!?いいから今すぐ解け!」
「・・・解き方分かんないんだよね!」
「どうにか「出来ないよ。その呪文は解読呪文はないんだよ」
「理事長・・・・マジかよ・・」
「あーあ・・まさかこの呪文も無意識だったとか言わないよね?」
「・・・・流石に今の状況でそれはない・・・です。」
悠の静かな様子に遠くから説明した理事長が近くまで近づき小さく微笑む。まるで全部知っているとでも言わんばかりのその表情に悠は一瞬訳が分からなくなる。
「この呪文はね、粒子の力がくなれば勝手に消失する術なんだよ。その代わり人生分の魔力を消費するっといわれているんだ。でも悠ちゃんなら大丈夫だろうね~。他の子達が使っていたら死んじゃってたんだよ~」
その時だった。まるで電流が流れるように脳内に一瞬痛みが走り、目の前には見慣れた魔界の光景が映し出されたかのように見えた。
ジーンがいる
「悠ちゃん酷いな~・・・って術が完成したんだね。・・・悠ちゃん?」
映し出されているのは全て断片的で音も一切しない無音。まるでフィルムの映像の様だった。
魔界が見え、ジーンが焦ったように魔王と話している。その魔王はなぜか血だらけだ。
そして、後ろから何者かがジーンと魔王を串刺しにする。誰かの影が見える。あれはルシーダ廊下。咄嗟に何かを発動し目の前が暗闇に覆われる。
「悠ちゃん?」
そこで映像は消えた。・・・・なに、今の。
頭の痛みも、電流が走ったような感覚もすべてなかったかのようにどこかすっきりとした感覚を覚えた。
「なんでもないですよ」
幻なんかじゃない。じゃああれは・・・?
「・・・悠?お前顔色悪いぞ」
「ジーンが居なくなったんだから・・・あたり、まえ・・・」
「いや・・・そう言う意味じゃねーよ!っておい!?悠!!」
なんでそんな焦った顔して・・・・あぁ、床にぶつかる
疲れたな・・・
『少し休んでいて。少しだけ私が相手をしてあげるわ』
そんな声が聞こえた気がした
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