第68話
あの悪魔一体何者なんだ・・・
それに、いくつか気になることも言っていた。そもそもなんで悪魔がわざわざ忠告のようなことしてきたのか。
それよりも、それよりも・・・できるなら一番見せたくなかった春香に戦いを見られてしまった。
「ゆ、う・・・ちゃん・・・」
・・・あーあ・・・ほんと、ツイてない。
ふっと後ろを振り返ると隆斗に支えながら一定の距離を保ち話しかけてくる。
否、かろうじて言葉を発している春香がいた。心を読まずとも、恐怖と悠には理解できないほんの少しの怒りが垣間見れる。
「悪魔が悠ちゃんをおそって・・・」
「うん。そうだね」
「それで血が舞って悪魔が消えて・・・血が・・血「春香もう・・・いいんだ。俺たちは先に帰るからな。それでいいよな、神乃宮」
隆斗が春香を抱きしめ言葉を遮り悠に話しかける。
「・・・ここに春香を居させれれないのは隆斗が一番よく分かってるでしょ。・・・春香を、よろしく」
隆斗が小さく春香に声をかけ歩くように促すが春香は一歩も動かず、うつむいたまま悠に話しかける。
「悠ちゃんが悪魔を・・・ころしたの?」
「そうだよ。」
聞こえてくる心の声に押しつぶされそうになる。
・・・そしてゆっくりと顔を上げる春香は、涙を流していなかった。しかし、恐怖と怒りで濁った瞳になっている。
その顔をさせたくなかったのに
だから・・・その顔で私を見ないで
「下級の悪魔は・・・元は人間なんだよね・・・?」
最初に襲ってきた悪魔は、下級悪魔ではないけど。・・・今の春香には私の言葉は届かない
「そうだよ。もちろん知ってる。」
「・・・悠ちゃんが・・・こわい・・・その力が怖いよっ!みんなとは違うっ・・・まるで化け「小日向!」
翔ちゃんが吠えるように叫んだ。
・・・さっきまで全然違うところで作業してたのにいつの間に近くまで来てたんだろう。気配感じなかった
静まり返っていた中で話をしていたのだ。もちろん近くで作業をしていた男子校の生徒全員に聞こえている。翔は春香が発する言葉が何か分かった。勿論、聞こえていた全生徒が分かっただろう。
『化け物』と、言葉を紡ごうとしたことに。しかしそれは、男子校の生徒達にも影響が出てしまう。
特別な力を持った人間にとって、その言葉がどれほど心を抉るのかその場にいる男子校の生徒全員はわかってしまうのだ。痛いほど知っているからだ。
悠の気持ちを。
普段悠に向かって男子校の生徒たちが言っている言葉でも、重みが違うことを
庇う様に立つ翔の背中を見つめながら悠は困った表情でいびに微笑む。
本当に、翔ちゃんは優しいんだから・・・声が聞こえる。この場にいる男子校の生徒全員の声が。
それは、恐怖だった。翔ちゃんは、その言葉が周りさえも傷つけると知ってその言葉を言った春香自身も傷つくと知っているからわざと吠えるように怒鳴ったんだって。
だから、翔ちゃんは優しすぎるんだよ
「隆斗。早く連れていけ」
「ああ。・・・行くぞ」
「ずっと皆は・・・人を殺していたのっ?」
「春香。行くぞ」
「ずっと・・ずっと・・」
春香はぶつぶつと何かを呟きながら隆斗に連れていかれた
「・・・・悠」
「大丈夫!」
「大丈夫なわけねーだろ!・・・・なんて顔してんだよ。お前らもだ!気にする必要はねーからな。」
「一番気にしてるの翔ちゃんなんじゃ・・・?」
「この状況で悠、お前がそれを言うんじゃねーよ!」
「え?」
「え?・・・じゃねーだろ!?」
周りを見渡しながら悠の頭を撫でる翔。見慣れた光景のはずだが周りには少し違って見えている。・・・安心するのだ。いつものやり取りを見るのが、こんなにも安心するとは。ふと笑みをこぼしいつの間にか止まっていた手を動かすのを見て翔が小さく安堵したことに悠は静かに笑った。と、
「悠ちゃん?だいじょーぶぅ!?」
「夥しい血の量だったが・・・」
「これは流石に僕も心臓が飛び出ると思ったよ~・・」
あらかた作業を終えたクラスメイト達がわらわらと集まってきた。真っ赤に染まったワンピースを見て引きずっている者もいれば悠は気づいていないが顔から前髪にかけて血がべったりとついているのを見て叫ぶ者もいる。
翔は一言「吹き飛べ」と唱え、悠に付いた血を消し飛ばす。
「ちょっ!?翔ちゃん突然何!?」
「うるせー」
お前ら自由か!!
「悠!途中までついて行ったんだがアラートがなる可能性があると思って引き返したのがまさかこんなことになるなんて・・・事情は粗方聞いているよ。」
「ジーン・・・また、怖がらせただけ。それに春香の反応が普通なだけだって。私達が・・・私がおかしいだけなんだよ」
「悠・・・」
「・・・・どうして私は・・」
教えてよ、なんて口に出せなかった。どうしてこんな存在なんだろう
ジーンには伝わってしまっている。見たことない顔してるからね・・・わかりやすいのは翔ちゃんと同じなのかも
「・・・・片付けないとな!ほら翔ちゃんたちも手伝って!」
私はわざと明るく言うとそのまま片づけを始めた。
翔ちたちは心配そうな表情でこちらを見つめているが、悠はあえて気づかないふりをして修復していく。
やがて男子校の生徒たちが各々作業に戻ると悠は誰にも聞こえない声で乾いた笑いを発した。
いつもそうだ。
私はいつも大切な人を、守りたい人を怖がらせて・・・自分で手放してしまう
泣かないんじゃない。泣けるわけがないだけ
だってもうあの時から私の涙は既に枯れているんだからな・・・
そしてまた私は巻き込まれたわけだ
魔界の事情ってやつに
・・・あのときって、なんだったっけ
こうして、波乱を残したまま交流会当日を迎えることとなる
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