第66話
「もう少しだけお洋服見てもいいかな・・・?」
広場内にある建物に差し掛かった時、悠に春香が訪ねた。
「まだ時間あるからついて行くよ。いつもみたいに自分の服見るの忘れてた訳ね。」
「ありがとう悠ちゃん!」
そうして三階にあるショップまでついて行き、春香は元々買いたいものが決まっていたらしく目移りすることなく必要なものだけを持ち会計をしている。ここの建物は全て吹き抜けになっており、まだ寒い風が肌に触れる。
長袖とはいえちょっと寒いな・・・と思っていると突然翔が何かを投げてきた。それは悠が着ている制服のブレザーだった。
「それでも着とけ。・・・そろそろ帰らねーとな。小日向の用事も済んだみたいだしな。行くぞ悠」
「はいはい」
春香がいた隣には、いつの間にか翔が並び二人で階段を目指し歩きはじめる。
「・・・隆斗くん。悠ちゃんの隣に居るのずっと私だけだと思ってたの。でもね、呉牙くんには勝てないなぁ」
〝すごくお似合いなんだもん!〝そう後ろで微笑む春香を見て隆斗は優しく春香の頭を撫でる。当の本人たちには、それはもう完全に聞こえているのだが・・・
「私の隣に居るのが当たり前みたいに言われてるよ翔ちゃん」
「おま、悠が毎回暴走するからだろーが。見てねーと色々危ないだろ!」
「お似合いだってさ。私と翔ちゃん」
悠にからかわれているのが分かっているのか翔は少し顔を赤らめ
「うるせー!帰るぞ!」
そう言い悠の片腕を引っ張りながら歩いていく。しかしその反対にはいつの間にか春香がおりもう片方の腕を引っ張りながら歩いている。
翔も春香も力いっぱい引っ張っているのか悠の体が右へ左へと揺れている。
まって。意外と春香力強いっていうか腕がもげる!!
「・・・・・・翔ちゃん。春香。もうそろそろ腕が限界なんだけど!」
階段を降りようとしたその時、その場にいた春香を除く全員が一回を見下ろした。
「翔ちゃん」
「分かってる。悪魔か。上級の悪魔だろうな・・・距離も近けーな。悠だけ聖杯召喚しろ。俺たちは援護に回る。」
片手には短剣を持ち、傍から見れば人間だが悠たちにはそれが悪魔であることはすぐに察することが出来た。翔が言う前にすでに悠は聖杯を召喚しており、その言葉で翔たちは聖杯は召喚せず援護に回ると判断した。
それは、悠が一番戦いに慣れており、何より街中の戦闘が翔たちの中で一番優れているからである。昔から悪魔に襲われ戦闘を余儀なくされていた悠にしかできないことだと、翔が判断したのだ。しかし、翔はこの後すぐに、それを後悔することとなる。
一斉に機械が鳴り始め、悪魔がいることを知らし始める。一階にいる人間と三階にいる人間では音の段階が違うため皆三階へ続く階段へと向かい走り始める
「音が一番上だな。」
「ちょっと厄介かもねぇ!」
「・・・数人はここに残っておいた方がいいだろう」
「僕とぉ新とぉ伶と隆斗が残ればいいと思うよぉ!」
そんな会話がすぐ後ろで繰り広げられているが、悠は一度も悪魔から視線を外すことはない。否、できなかったのだ。
・・・人間の姿をしてるけどあれ悪魔だよな
(殺す殺す殺す・・・特別な奴を全て殺す・・・それが新たな魔王の命令だ!)
悠の声にはしっかりと悪魔のこころの声が聞こえていた。しかしその声の内容に違和感を覚える。
「新たな魔王の命令・・・?」
悠の声は周りの音にかき消される。下にいたはずのその悪魔は、人間の姿に擬態し、こちらへと迫っていた。
間に合わない!
一番傍にいた翔を押しのけると同時に上着を脱ぎ翔にたたきつける。
春香は翔にされる形となり隆斗に支えられ翔はバランスをどうにか保ちながらもつれるように後ろへ下がっていく。その刹那、人の体を刺す表現しがたい音と共に剣が悠の体を貫いた。さらに短剣により体を至る所を刺され悠の服は自身の血により真っ赤に染まる。
「・・・・・ぇ」
これは、突き落とされるな、と他人事のように考えながらも無意識のうちに心の中で痛みと衝撃を緩和させる言葉を唱えていた。
春香の微かな声が聞こえた後、あたり一面血があふれ出し蹴飛ばされ一階へと落ちる。
ドゴッとまるで物が落ちたかのような音がしたのち、悲鳴が響き渡る。
そんなに刺さなくてもよくない・・・?結構痛いな・・・
人間の姿から元の姿へと戻ったその悪魔は全身黒く血を失いすぎた悠にはぼやけ認識が曖昧になっている。
・・・増血と治癒でもやっておくか。と当の本人は暢気に思いながら心の中で唱え身体がわずかに光る。
「悠っっっっ!!!」
翔が強く焦りと怒りと悲しみが混じった声で叫ぶ。
その名前を聞くのを待っていたといわんばかりにそいつは上から悠の顔をのぞき込み、にたっと笑った。
「くくく・・・落ちぶれたものですね」
・・・こいつ殺そうとした奴に吐く言葉じゃないだろ!!
「・・・いや誰?死人を出してないし落ちぶれた覚えもないんだけど!!」
「あ?・・・お前なんで刺されて普通に話せるんですか」
「残念なことに私は半分化け物なんでね、ご覧の通り傷はもう治ってるし横になってる間に治癒も増血もしておいたから刺される前と何も変わらないよ」
そういうと悠はまるで少し転んだかのように髪の毛に付いたごみを掃い立ち上がる。
「・・・どうして?」
ぽつりとつぶやかれた春香の言葉は耳に入らなかったことにした。
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