第65話
気が付けば交流会まで残り2日と迫っていた。
あの後なんやかんや春香も隆斗もうまくいったようで安心している。
「悠ちゃん!!」
春香の男性恐怖症は治らなかったものの、もう一人例外が出来た。言うまでもなくわかるとは思うけどね・・・
「隆斗くん!」
笑顔で隆斗の名を呼ぶ春香。言わずとも大体想像出来であろう。隆斗である。むしろ隆斗じゃなかったか驚くわ!でも、治ると思ってたんだけどな・・・というかあの感じだと治ると思っちゃうよな!!
久しぶりにいいことしたって感じだったんだけど・・・
「なんで私には良いことどころか悪い事しか起こらないんだろう」
ああ・・・羨ましい・・。どこがというかもうすべてが羨ましい!
教室の窓の淵に腰掛け外を一人見上げながら黄昏る。が、思い出してみよう。
交流会は二日後に迫っている。やることは山ほどあるのだ
『叫んでねーで仕事しろよ!』
「いいじゃん!!私結構仕事してると思うけど!?せめて5分でもいいから休憩させてほしいわ!!」
こいつら本当、私を女子じゃなく男子だと思ってるよ・・・!!皆がせわしなく動いている中一人傍から見ればさぼっているように見えてもおかしくはないだろう。悠は勿論不満だらけだが。
お菓子は中等部から大学部までの全クラスに口頭で伝えに行ったし、準備も前日に仕込むことになったけどさ・・・
飲み物や内装に至るまで全部私が関わってるんだけど!?翔ちゃんたちは分担とか知らない訳!?それなのにまだ働かそうとするのが意味わからない!
「あー・・・暇って最高かも」
「・・・お前な、隆斗も手も動かせよ。全部任せてるのは事実だけどな、俺たちは魔界にいた間に溜まりまくった書類を処理してんだよ。手伝うのも禁止になってるしな。後流石にあいつら見すぎだろ!気まずそうじゃねーか!」
なんだその自主性を大切にしている感・・・!実際その一番上にいる理事長に振り回されてるだけだと思うんだけど。とは流石にこの場では言えないと判断したのか悠は言葉を飲み込んだ。
やることがなく暇と漏らす悠だが、実際は心の中で愚痴を言いつつも隆斗と春香を観察している。それにあきれている翔が仕方ないと、釘を刺す。
そんなこと言われてもな・・・と再び春香と隆斗を見る。
実際心の声が聞こえるから全部まるわかりなんだけどね!聞きたくないけどあまりの思いの強さに全部拾っちゃうんだから仕方ないって!
それに、若干わざとらしく見せつけてくるのが癪に障るんだよな。隆斗のくせに!
「あー・・・実際こんな平和な日常を送ったのは初めてだからどうすればいいかわからないだけかも」
『・・・は?』
悠のその言葉に全員の動きが止まり驚愕の表情と共にその場にいるほぼ全員の言葉が重なる。
春香は女子高での私の行動なんとなく知ってるから力なく笑ってるけど・・・
「いや・・・ずっと悪魔に狙われてたし・・・うっかり怪我なんてしたら一週間寝れないなんて日もあったんだよね」
「だから育たなかったのか?」
「どこ見てる?ねえ翔ちゃんどこ見てる!?」
「『栄養不足で胸が育たなかったんだよな・・・俺的にはもう少しあった方がいいんじゃねーか』って思っているみたいだよ」
胸を凝視する翔を揺さぶりながら怒りよりも驚きが大きい悠だが、翔に追い打ちをかけるように暇そうにしていたジーンが翔の肩に手を置きにこりとほほ笑む。
あ、悪魔がいる・・・って悪魔だったわ。
「おい勝手に読むんじゃねーよ!!」
「僕も暇なんだよ・・・少しくらい悪戯してもいいんじゃないかな?」
「悪戯よりもう少し男子と戯れてれば?手伝えることもありそうだと思うけど?」
「あんな奴らと戯れるなんて、とてもじゃないけど僕には無理だよ・・・。翔とはいい話が出来そうだとは思うよ?」
ああ・・・なんて穏やかな?日々なんだろうか・・・
半ば現実逃避を始めた悠にひょこっと近づいてきたのは春香だった。
「戦う以外にやることが無いよ、春香・・・」
「悠ちゃん・・・戦うことが好きなの?」
「ん?そんな訳ないじゃん。だけどいつも戦ってたから戦う以外の選択肢がないんだよね。料理はもう作りたくないし・・・寝る・・・か。勝手に出かけることもできないしさ」
「だったらこれ手伝えよ!」「こっちもやれよ!」「どう見ても暇じゃないだろ!」とかヤジが飛んできたけど私の仕事は!もうありません!
お前らどれだけ私をこき使おうと思ってるんだよ
「悠ちゃん!私いいこと考えちゃった!」
「いいこと・・・?」
そんなやり取りを見ていた春香は閃いた!と言わんばかりの満面の笑みを浮かべた。
春香がいいことっていう時って大体とんでもないことになるんだよね・・・
「じゃあ、悠ちゃん達には街で警備をしてもらうね☆!」
「・・・・また何言いだしてるのこの人。こんな忙しいときに」
「やめろ。俺だって同じこと思ってんだから口に出すんじゃねーよ。つか忙しいのわかってんじゃねーか」
なんと春香は一人で理事長に直談判しに行こうとしたのだ。仕方なく悠もついて行くというと芋づる式に翔ちゃんもついてくることになった。
無理やり連れてきただけだけどね。
それにしても、前の春香だったらこんな行動力もなかったけど今はその行動力発動しなくてもよかったかなとは思う!
準備は・・・・とりあえず何も考えないようにした!
春香が提案したことに対して理事長は乗り気だが、悠と翔の言葉の圧が思ったよりも聞いたのか未だに話し合い中だ。
「う~ん・・・休校には出来ないけど女の子の頼みには僕は弱いんだよ~・・・でもショッピングなんて僕思いつかなかったよ!」
私の頼みは一切聞かずにほぼ強制的だったくせに!?あとそのショッピングは多分春香が私に服を着させたいだけだと思うんだよね!
「う~ん困ったな・・・悠ちゃん!」
困ったときの私じゃないんだけど!にっこりと、春香とは違った別の意味で恐怖を感じる笑顔でじりじりと悠に近づいていく。
ホラーなんですが!?
「・・なんですか」
「悠ちゃんは行きたいかい?行きたくないかい?」
「・・・学園内にもありますよね?」
何かたくらむような悪戯が成功した後の笑顔のような、よくわからない表情で理事長は悠に問いかける。悠の答えは、ありきたりなものだ。
本音言うとかなり行きたくない!中ならまだましだけど・・・外は嫌だ
春香と買い物できるのは嬉しい・・・だけど、あまりいい思い出がないのも事実な訳で
せめて春香と二人っきりにしてほしい!!
「悠ちゃん・・迷惑だった?・・・ごめんね・・」
理事長が少し距離をとると春香が申し訳なさそうな声でそういう。
「ち違う!・・・・あーもう。行きます!久しぶりに春香と一緒に居られるしね」
落ち込みながら〝迷惑だったかな〝と心の声が聞こえてしまい、元々遥かに弱い悠は承諾してしまった。
か、勝てなかった・・・翔ちゃんやめて。〝お前嘘だろ・・・〝って心の声と表情で語らないで!!
「決定だね♪じゃあ、翔たちのクラスのみ行くんだよ☆実際ショッピングモールで悪魔が目撃されてるのもあるんだよ。その偵察も兼ねて楽しんでね~☆」
あ、これ間違いなく理事長に神楽が文句言いに行くやつだ、と翔と悠はその時悟った。
「悠ちゃんこれ着てみて!あっ。このお洋服もすごく悠ちゃんに似合いそうだよ!」
歩く、には距離がある為特別に許可され、転移を使い悠のクラス、高等部1年SSクラスのみが偵察を兼ねてショッピングモールに来ているわけだけど・・・一瞬でバレるよね!
滅多に見ることが出来ない男子校の生徒たちに休校か何かでもあったのだろう。他の学校の生徒たちが騒ぎはじめあたりは騒然となった。
そんな中、悠と春香はその場を抜け出し何故か今私は着せ替え人形になっている。
「・・・私着せ替え人形じゃないんだけど・・お店の人にも迷惑かかるでしょ」
「大丈夫って言ってたよ?・・・ね?お願い!悠ちゃん!」
「分かった・・・けど・・・・これもう警備じゃなくてただの遊びだから!!てかなんでお前ら勝手についてきて状況を楽しんでる訳!?」
どちらかと言えばフワフワしたゴスロリ調のものが多く取り揃えられている店舗の後、最近はやりのへそ出しコーデというものを春香に押し付け、ではなくお願いされ着ることとなったのだがその光景を何故か春香と同じように楽しんでいる男たちがいた。
そう、あの騒然となり悠と春香が抜け出した後すぐ、追うように翔たちはその場から逃走したのだ。
結局見つかってるし、なんか遠巻きに他の女子からの視線が刺さるし・・・
可笑しい。確かに理事長に警備って言われたはずなんだけど・・・皆めちゃくちゃ楽しんでるんですけど!!
「悠ちゃん!これ・・・あ、あとこのお洋服もすごく似合うと思うの!」
「これって・・・下着じゃん!あ、サイズはピッタリなやつって違う違う。え?なんで?」
「さっき呉牙君がすごい見てたから・・・でも悠ちゃん着やせするからすごい大きいよね」
差し出された下着を翔が見ていたことと、着やせすることを暴露され挙句手には大量の服があるこの状況に悠はため息もつけそうになかった。
「はぁ?こんなの着てるのかとは思ってたけどな・・・なんで俺がお前の下着選ぶ必要があるんだよ!」
「それは、うん。確かにそうなんだけどよく堂々と下着コーナー見てたね。しかもそれ春香に見られてたからね。」
それを物珍しそうな表情で見つめながら各々言いたい放題の翔、有稀、伶、新、隆斗。しかしやはりと言うべきか翔が全員の顔を見ながらそう叫んだ。
「わ、わたしこの下着買ってくるね!」
「え。春香ちょ・・・!?」
そしてその様子に春香は何を勘違いしたのか、そもそもどこに勘違いする要素があるのか皆目見当もつかないが、翔が見ていたであろう下着を買いに行ってしまったのである。
いやいやいや、なんで?なんでそんな・・・面積が少ないのを!?しかもなんか透けてない!?
ま、着る予定なんかないからいいか!本当にどうしようもないときが来ないことを願おう!
春香が久しぶりにワクワクしてて楽しそうだから・・・まぁ、試着するだけしてみるか。外野がうるさそうだけどな
更衣室から出てきた悠に対する翔たちの言葉は、翔を除き大体想像していた通りのものだった。
「悠ちゃんのことよくわかってるねぇ!」
「・・・服のことはよく分からない」
「この服が一番似合ってるよ~」
悠が来ている服は、胸元が開いているオフショルダーで肩にリボンが付いているへそ出しワンピースで全身白色のとてもかわいらしいワンピースとなっている。
が、丈が短く仕方なくパニエ履いている。さらには靴はヒールが高く足首で止めるタイプになっておりこの姿は中々見ることが出来ないだろう。
さらしに布付けて肩紐付けた感じにしか見えないんだけどな・・・後流石に短いな!!あと靴・・・これ走れるのか?
「おまっ・・・いつもそんな露出の高いの着てるのか!・・・なんで似合ってんだよ可笑しいだろ」
翔がかなり照れているのか耳が赤くなっており、悠をひたすらちらちらと見ている。・・・最後の言葉は聞かなかったことにしておこう。
「こんな光景見れるかわからないからな!目に焼き付けておかないといけないな!!」
隆斗がそう高らかに宣言したことで散らばっていた男たちが集まってきたことにため息をつくしかなかった。
そしてもちろん、その服はもれなく春香がトータルで購入し、着たまま帰ることになった。
制服返して・・・
「♪♪♪~」
ショッピングモールは広く、緑に覆われた広場がありその先にショッピングモールが続いている。
そしてその横に腕を絡め若干スキップをしながら鼻歌を歌っている春香に、やや疲れ気味の悠。その後ろから翔、有稀、伶、新、隆斗が続いている。
そんな団体が目立たないはずもなく、興味津々の視線と悠の生足に視線が突き刺さる。
突き刺さりすぎて足取れそう・・・
「ってこういうことは隆斗にしてやったら?」
喜ぶでしょ、の言葉に春香は微笑む
「今は悠ちゃんの隣にいたいの。すごく久しぶりだもん!」
そんな春香に悠は、そうだね。と返事をするしかなかった。
「・・・・私にはこの姿は似合わないのにな」
「え?」
「なんでもない。・・・悪魔がいる気配も感じないし早く帰って交流会の準備しないとね。」
「うん!」
少しだけ、歩く速さを早くして、歩いていく。その時から、悠は薄々気が付いていたのだ。
ほんの微かに、悪魔の気配が漂っていることに。
私が行くから事件が起こるのか、事件があるから私がいるのか・・・どっちなんだろうね。
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