第64話

‶・・・早く、してほしい。〟

強く光を放ち続けるその光に悠は目をそらす。

ちょっと光で感情表すの止めて!!目がチカチカする!!・・・だけど、確かに早くしないと。

悠の〝早くしなければ〟と言う言葉が伝わったのか微精霊達が一斉に押し寄せふわふわとあたりを飛び回り始める。・・・命令はしたくないけど仕方ない

『あー・・・私が敵だと思った奴を全て眠らせろ!!』

‶・・・存分に力を発揮して見せる〝

微精霊達がバッと一斉に散り男達の周りをくるくると回り始め、輝きが増した時言葉を発する前に男達は後ろへ倒れるようにして眠っていた。

それを目の当たりにし、一番驚いたのは紛れもなく・・・

「・・・マジで?」

もうこれ完全に過去に介入してるんだけど!!

誰でもない術者本人であった。


突然男達が眠ったことにより春香はとても混乱していた。

なすすべもなく、ただただ自身がけがされていくような感覚に陥りまるで自身の気持ちを表しているかのように明りも消え明かりが消える頃には何もなくなっているのではないかと、そう思っていた。

しかしどうだろうか。目の前には仰向けで寝転がりびくともしない男達と、まばゆいほどの光の玉がいくつも浮かんでいる。

「・・・み、んなは・・・・?」

情けない声。震えて力もない絞り出したような声。それは自身から発せられている音。

「春香様っっ!!」

「・・・・ぁ・・・・うわぁああああああああー--!!!」

かろうじて服を着ているような状態の彼女たちは自分のことなどどうでも良いと言うように真っ先に春香の元へ駆けつけ強く、強く抱きしめる。彼女たちの温もりと共に頭を優しく撫でられ『もう大丈夫だよ』と優しく強い声が聞こえたような気がして春香は初めて安堵から大きな声を上げて泣き続けた。それは泣いている声というよりは叫びに近かった。


春香の世話係達が春香を抱きしめたのを確認し、念のためもう男達に眠りをかける。・・・見えてないし多分触ってもバレないだろう!と、悠はあえて気配を消して春香へと近づく。

「すり抜けるのかよ!」

物に触れる可能性があるからわざわざ気配消したのに触れないしむしろすり抜けるとか私は幽霊か!ま、まぁ今はそれに近いかもしれないけど!!

なんて、相変わらずツッコミを入れながらも春香の横に立つと頭を撫でながら

「春香。もう大丈夫だよ。・・・遅くなってごめん」

とつぶやいた。


どのくらいの時間がたったのだろうか。遠くからこだまするサイレンの音がどんどん近づいてくる。やがて大きな音はぴたりとやみ、扉を勢い良く開ける音がした。

「春香!!」

警察よりも真っ先に駆け付けたのは隆斗だった。

その瞬間、今まで感じていた温もりは消え、さよならと声が聞こえた。


春香の記憶を読み終わると術がまだ作用しているのか悠の右肩に頭を乗せ静かに眠っている。悠は安堵し同時に深くため息をついた

「・・・流石にこれはないって」

そうこぼれた声は静かに周りに広がる。・・・それもそうだろう。過去に事件がありその事件現場に記憶を読むためだけにそこにいるはずの悠が今の姿のままで微精霊達と会話し、介入し挙句それが本来の過去として認識されてしまっているのだから。

ありえないんだけど・・・でも、私が介入することが出来るのなら今見たことが全てってことだし・・・

「あー・・・意味が分からない。ね、翔ちゃん」

「ああ・・・・ってはぁ!?」

「有稀に新、伶もいるのわかってるから出てこれば?・・・隆斗もね。」

初めから翔たちがいることに気がついていた悠はあえて翔の名前を呼ぶ。ピクリと春香の手が動いたが気づかないふりをする。

てかこそこそ来たのにちゃんと名前には反応するのが翔ちゃんらしいよね・・・。転ぶそうな勢いで驚く翔に渋々出てくる有稀と伶。あたらは相変わらずひょうひょうとしている。最後に呼ばれた隆斗は居心地の悪そうな感情を押し殺した表情で姿を現した。

「相変わらず近いな!・・・目を覚ました春香がおびえるからもう少し離れてくれない?」

いつも通りの距離、つまりは近いのだがそれに気が付かない翔たちは悠の言葉でベンチから距離をとる。・・・いや、あんまり変わらないっていうか子の距離感がむしろ正常な気がするのは私だけ!?

「・・・俺たちに記憶を見せたのはなんでだよ」

隆斗が静かに問いかける。

「最初はところどころ見せようとしたんだけどまさか春香の過去の記憶に介入できると思わなくて・・・つまり、元々限定的に見せようとしてたものがこっちの同様で限定が広がっちゃったって訳。春香自身も見られていることには気づいてると思うからあとで謝らないと・・・あ。おはよう春香」

春香の意識が完全に戻ってきたようだ。

まばたきをし、状況が読み込めていないのだろう。まだ夢の中にいるようにどこか虚ろだ。・・・過去を強く思い出していたのだから仕方がないが、目の前に翔たちがいることも一つの原因だろう。他に原因があるとすれば、春香が話の初めからすでに目を覚ましていたくらいだろう。

「・・・なんとなくだけどね、私みんなに見てもらってよかった気がするの」

春香の声が、変わった気がした。どこにいるかわからないようにフワフワしている感じだったのが芯の強い、凛とした声になった気がした。

なんとなくだけどね。・・・・これ私たちが居ても仕方ない気がするな

「春香も目を覚ましたけど、心配だから隆斗が見ててあげてよ。私たち一応生徒会??だからあんまり離れるわけにもいかないから!!」

「ゆうちゃ・・・!!」

これ以上私たちができることはないと思うし、話し合いが必要なのはこの二人だから。

「まだ眩暈すると思うけど早めに戻ってきてね春香!隆斗も」

〝わたしよりも、ちゃんと話さないといけない人がいるでしょ?春香〝

悠はいつの間にか翔たちの上着を引っ張り〝転移〝と唱えその場からいなくなった。最後にそんな言葉を残して。


取り残されるようにして置いていかれた春香と隆斗との間には気まずさと思い沈黙がのしかかる。心の準備もなく突然の出来事にこうなるのも無理はないだろう。

「・・・・見ちゃった?私の記憶」

「んで・・・なんでだよ。なんで俺は知らなかったんだよ!俺だけ、知らなかったのか!」

「言わないでって私が頼んだのっ!・・・隆斗くんしっかりしてなかったんだもん。責めちゃうと思ったの!」

はじめに言葉を発したのは春香だった。春香と隆斗はお互い苦しそうな表情で話をするが目を見て話をできていないのだ。気づかないのも当然だろう。

「わかってたら・・・俺は春香にあの言葉を言わなかった!真実を聞いていれば俺は!・・・〝全部お前のせいだ〝なんて言葉言わなかった!!」

「言われて当然なの!勝手に行動した私の責任だって・・・思ったのっ!!」

その後も幾度となる強く苦しく悲しい言葉が飛び交いやがて、折れたのは

「やめだ!・・・神ノ宮が俺たちだけにしてくれたのはこんなことのためじゃない。」

「隆斗くん・・・」

隆斗は春香の正面へ立ち、深く深く頭を下げる。強く握られた手は赤くなり、春香が止めようともやめることはなかった。

ほんの少しの時間だが隆斗と春香にとっては長い時間がたった

「隆斗くん。」

ぺちん。春香の声で顔を上げた隆斗の右ほほに小さな刺激と共に冷たく冷え切った手が添えられた

「お、おい!大丈夫なのか!?」

隆斗は硬直し焦りだす。その表情に春香は小さく微笑んだ。

「・・・これでわたしも隆斗君を傷つけたから、隆斗くんと同じだねっ。」

「ごめん。・・・ごめん春香」

右ほほに添えられた春香の手を取り抱きしめる隆斗の表情は春香からは見えないが声は震えていた。

「・・・いいの。もういいの。泣かないで隆斗くん」


その後戻ってきた春香と隆斗には涙の跡があったが表情は穏やかで和解できたのだと誰もが悟った。悠は春香と隆斗の心の声を読むことはせず会話を聞くこともしなかった。

ただ二人を見ながら“救ってくれたあの人〝を静かに思い出していた。

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