第63話
目を開けると埃っぽさと砂が入り混じった匂いに顔をしかめる。辺りは暗闇で微かに人の気配を感じられる。それは悠が聖杯を所持しているか若しくは記憶を見ている者に過ぎないからだろうか。
なにはともあれ、無事に記憶の中に入れたみたい。でもこれどこから記憶だ?と春香が語った話を振り返る。
・・・どうやら春香が連れ去られて目を覚ました所からの記憶らしい。完全に春香の話の続きから始まってるなこれ
半覚醒状態でぼんやりとした意識の中する中静かに目を覚ました春香は、状況を把握する為か暗闇を見渡し、はたと自身の中では直前の記憶を思い出し恐怖と不安ぬ押しつぶされながらも小さく‶ここはどこ‶と呟く。
春香の状況は絶望的だった。自身の居場所も分からず辺りは暗闇、さらに手足を縛られ床に転がされている。
唯一の救いなのは直に床に転がされていないことだろう。上質な触り心地のするカーペットの様な物だと理解できる。この後何が起こるのか無垢な少女でも、理解できただろう。
自身の力ではどうすることも出来ないこの状況を絶望以外の言葉でどう表せばいいのだろうか。否、表す方法をこの少女は知らない。
・・・まって。なんかナレーションみたいに誰かの声が勝手に語り出してくるんですけど!昔の事とか思いだす以前の問題にお前誰だよ!若干labyrinthの声に似ているのがなんか腹立つな!
それにしても、春香の声聞こえなかったな…
どうにかして春香は拘束を解こうと藻掻く。だが、勿論固く縛られてる拘束具はびくともせずも焦りと不安が増し体力が奪われていく。
・・・あー・・・シュールだななんか。この時の春香にはまだ精霊を呼び出す力も微精霊を感じる力もないんだっけ。見えてはいたとは聞いていたけどこれだけ混乱してたら微かに見えるだけの力しかない春香にはなにもみえないんだろうなこの状況が。
ほら、あの、私には春香の周りに今まで見たことのない数の微精霊が見えるんだよ。なにあれ。もう微精霊の集合体で春香見えなくなってるんだけど。蛍か何か?それにしては大きな蛍だね!!じゃないんだよえぇ・・・ちょっとよく分からない状況だなこれ!
「春香お嬢様っ!」
そんな中、春香の名を呼ぶ悲痛な声が聞こえた。
・・・もういいや。これ聞いておこう。それにナレーションあった方が少しは落ち着ける気もするし。それに私にはこの部屋全体がもう既に見えている。のはきっと記憶を見ている者だからなのか?
春香が連れ去られた部屋、地下倉庫と言うべきだろう。埃と砂がどこからか入ってくる風で舞い、視界は闇そのものだ。風の音以外何もしない静寂がどこまでも広がっていくように感じられるほどとても広い。
SSの教室くらいの広さはある気がする・・・確かに埃っぽくて鼻がむずむずするんだよな。
この部屋は真四角、まぁ長方形で倉庫にしては少し可笑しな気もするんだけど倉庫だってナレーションも言ってるしきっと倉庫なんだろう、うん。
春香が転がされている場所は倉庫中央。その四方に一緒に連れ去られたであろう世話係が自力で縄を解いたのだろう手の拘束は解かれているが足の拘束はそのまま転がされている。
暗闇でも気配を多少なりとも感じるであろうが、今の春香では気付かないのもしょうがない。
・・・四方にいる世話係にはどの加護があるか明確には言い切れないが何かしらの加護があり、それが世話係を今も尚守っている為春香の気配に気が付くのが遅れたのだ。
・・・多分世話係の人たちは微精霊の加護がある。
春香を包み込んでいる精霊は一部を除き全て契約済みの微精霊達だ。春香を探し出すために微精霊の力を借りたんだろうな。でも春香についてきた微精霊もいる。
・・・悠は静かに息をはく。それはこれから起こる出来事が想像せずとも理解出来てしまっているからだ。
あぁ、見たくないな。・・・・だって、精霊使いを誘拐してすることなんて一つしかないんだから。
「早くお逃げくださいっ・・・お早く!!」
微精霊の力は他の精霊達に比べる僅かだが地水火風の微精霊が存在し克多く居る場合ごくわずかな精霊の力を発揮することが出来る。
世話係の四人はそれぞれ地水火風の微精霊を多く従えている。従って精霊の力を発動することが可能なのだ。・・・だから春香に集まってたんだね。勿論春香の周りにいた微精霊達も協力をしている。そのおかげか縄がチリっと音を立てて焼け落ち春香の拘束が解ける。
春香は暗闇に少し慣れてきたのもあるだろう。安堵と不安が入り混じり涙を浮かべながら辺りを見渡している。
・・・実は、私はこの地下倉庫電気がついてるのかよってくらい微精霊の光が強くて明るく見えてるんだよね。
それと、世話係の人たちは微精霊をここまで多く契約できる力はあるみたいけど聖杯や春香のような精霊や天使に特化した力は持っていないのだろう。持っていたら侵入者が来た時点で追い払えているはずだから
「どこっ・・・みんなどこにいるのっ!?」
春香が声を発した時、重い扉を開ける音が部屋に響き仄かに明かりがともされ部屋全体が見えるようになった。コンクリートで厳重に固められ拘束具がそこら中に転がっている。
明かりと共に現れたのは複数の男達だった。
あの拘束具を一体何に使うのか使用人たちは既に気が付いている。そりゃそうだよね・・・あからさまにニヤニヤしてるし。気持ち悪い。
・・・人数は6人、か。春香に二人、後は一人ずつってところだな。
春香や世話係の人たちの視線がその男たちに集中する。居場所を特定できないとかなりの自信があるのかそれとも早く目的を果たし逃げる為なのか、何方にせよ顔を隠す事も無く一人の男が春香がいる方へと近づく。それが合図の様に使用人たちに一人ずつ男が付く。・・・あぁ、これはもう。間違いない
「お嬢様早くお逃げください!!・・・早っっがはっ!」
「な、なにっ!?・・・どうしたのっ!?皆っ!」
「私達が、おさえて・・・いる間にっっっお早くっ!!!!」
「うるせーガキ共だな・・・まぁいい。どの道お前らはここから逃げだせないんだからなぁ!」
そう一人の男が良い、春香の髪の毛を掴み痛がる顔を満足げに見回すと地面に叩きつけるように手を放すそしてニタァと薄気味悪い笑みを浮かべると全身を舐めまわす様に見た後押し倒し、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
どいつもこいつも、結局こうなのか。と落胆と怒りが入り混じった感情で冷ややかな目でそれをみる。
「お前が、例の小日向家の娘か。・・・何も知らずにのうのうと生きているみたいだな。」
「なにっ・・・来ないでっっ!!」
「お前の家はな、精霊使いの家柄なんだよ。天使使いとも呼ばれてるんだったか!」
「せい・・・れ、い?てん・・・し?」
「知らなかったのか!!可哀そうな娘・・・否、“春香ちゃん”と言ったところだな!まぁ、そんなことはどうでもいい。精霊使いってのは代々受け継がれていくものなんだよ。だからこそ珍しい。・・・裏で取引をすれば高値で売れる。そうだな、それ以上に精霊使いを生み出す方が高く売れ俺の名誉も地位も上がるって訳だ。・・・精霊使いを生むにはどうすればいいか、今から俺が教えてやる」
「聞いてはなりません!・・・ぐっ!!」
「精霊使いになるには生まれた時から精霊の加護を持っていなければ出来ない。・・・簡単な事さ。お前が孕めばいい!!」
耳元で、ねっとりとした低い声が聞こえた瞬間、春香の視界は男で埋め尽くされた
「んー!!??・・・いやぁ・・・ぁ」
悲痛な叫び声が響く。それでも男は、抵抗しようとしている春香に興奮しさらに力を加え抑え込む。止まることのないその行為は、長く続いた。
服を破かれ、殆ど裸同然の格好になった春香の体を舐めまわし下着に手をかける。
止められないもどかしさで頭がどうにかなりそうになりかけた・・・あぁ、なんだこれ、見てられない
「いやぁ!!たすけて!」
春香の悲痛な叫びがこだまする。・・・けれど春香に声をかける人は誰もいない。春香の目に映る世界は自身が犯され用としている事実と、お世話係たちが自分と同じような事をされている光景だけだ。
瞳からはいつしか希望は無くなり、静かに涙し声も出さずただなすがままの状態になり絶望が身も心も支配する。
私はそれを見ていることしか出来ない。・・・ここは、春香の記憶の中なのだから
あまり見ないようにしながらも、絶望が支配するこの空間と悲鳴に助けたいと思ってしまう。
何よりも悠は記憶を見ているただの傍観者に過ぎないのか、壁にもたれかかろうとするとそのまま壁を通り抜けてしまった。あれは流石に驚いたよね・・・
同じところに留まるのもどうかと、悠は唯一の扉を目指し嫌でも耳に入ってくる様々な音を無視しながら歩いていく。と、春香の周りで回り続けていた微精霊たちが、なぜか悠に反応した。
・・・ついでに言うと、微精霊は最初心配しながら春香の周りに集まっていたけど襲い掛かった男たちを見て怒り狂っている。・・・仮にも精霊と名前が付く者を怒らせるなんて正気じゃない。あいつらどのみち死ぬだろうな。だけど、どうして微精霊たちは男達に攻撃をしないんだろう。とはたと悠は疑問に思う。
微精霊たちは本来ほんの小さな力しか出すことができず精霊と比較できないほど差があるが、より多くの微精霊が集まれば精霊と同じくらいの力を出すことが出来る。本来“守る”に特化している微精霊たちは戦うことも可能になるのだ。また、精霊と同等の力を出すことができる微精霊たちが攻撃できるようにするには微精霊側より力が上と認識さるか、微精霊たちより上の精霊の加護を予め受けること。又は、微精霊達を結晶化させて身につけること。基本精霊や微精霊は仲間と争わない。争いごとが嫌いな族でもある。・・・ってそんなこと考えてる場合じゃない
なんで見えるはずない私に微精霊が反応してる訳?・・・意味わからないんだけど!!
「なんだ・・・微精霊が反応している?」
・・・精霊見えてる、てか見えてたのかよ!
「誰かいるのかっ!・・・決壊が役に立っていないとでもいうのか?」
でもこれで確信した。こいつら学園に入れなかったもしくは入っても途中で退学させられたやつだ。
聖杯を扱える者は半ば強制的にあの学園に編入や転入もしくは入学させられる。もし仮に卒業していたにしても・・・こいつらに聖杯の力があまり感じられない。聖杯の訓練を受けていれば力が退化することはないといわれている。しかし初期の段階もしくは学園に入れなかった場合を除く。
一応知識はあるみたいだけど、その知識はいったいどこから手に入れたのか。
とにもかくにも。・・・元生徒でも、力が弱くなることは無いはずだから。こいつらは、何かしらの理由で学園に入れなかった聖杯所持者ってことになる。
ってなんでそんな奴が春香を狙ってる訳!?そもそも!!微精霊たちがどうして私を認識できてるんだよ!!
そう。本来悠が使ったこの術は術にかけた者が持つ記憶を映像と見ることが出来るだけであり術者が記憶の中に実際に存在することはあってはならない。過去に多少の影響を与えることが出来る術は存在するが記憶の中にある過去を書き換える術は悠が知る限り存在しないのだ。
悠の知識の数々はほぼすべて魔界にある書物から知り得たものであり、そこには術のすべてが記されている。だからこそ、たとえ初めて使う術だとしても失敗することやあまりにもねじ曲がった術になることはないのだ。
じゃあなんでこんなことになってるのかって?私も知らない!
書物を漁りに漁りまくり擦り切れるほど読み返したし、なによりも魔王や魔王の周りにいた悪魔たちにもにも聞いたからそう言うことがないのは確か。
・・・でも実際微精霊が助けを求めてくるって言う事実は何も変わらないな。
「いやぁ・・・いやぁぁ・・・」
虚ろな目で、嫌だ嫌だと呟く春香や騒がしくなる微精霊を他所にその男は周りを気にしつつ警戒を強めるが動きを止めることはしない。
「微精霊が騒いでいる。まさか俺よりも上の精霊使いがいるのかっ」
他の男たちはひたすら世話係達を抑えこみ情事に励んでいる。・・・世話係達が持つ微精霊の効力が切れ男達が持つ明かりも聖杯の力で保っていたのかこちらは効力が弱く周りはいつの間にか薄暗く目を凝らしてもあまりよく見えない。
私は微精霊の光が強すぎて逆に見えないんだけどね!!?
・・・あぁ、もう!どうなっても知らないからな!既にどうかなってる気もするけど!
『・・・私に、何か用?』
何かを諦めたように項垂れ短く息を吐き小さな声で微精霊にそう声をかけると微精霊は一斉に強く光り出した。・・・光ると力消耗するからあんまり光らないほうがいいいと思うんだけど
‶事情は聴かないで欲しい。ここにいる我らに愛されし子を助けて欲しい。私達よりも遙かに強い力を持っていることは初めから分かっている。我らが愛する子と同じ資格を持つ、幼き者よ。失うのはもう見たくはない〟
微精霊達の代表のようなものだろうか。中でも一番力の秀でている微精霊が頭の中を通して呼びかける・・・ちょっと待って?幼き者・・・子供になった覚えないんですけど!てかやっぱり見えるのか!男達には見えてないみたいなんだけどなんでかな!?
『・・・とりあえず、眠らせるか』
悠はぐっと心の声を飲み込み淡々と答える。語り掛けさえしなければ心の声は聞こえることはない。悪魔という種族を除けばの話だが。
本当は、これ以上何もできないようにしたいけど私のすることがどこまでこの過去に影響をもたらすのかわからない以上あまり無茶なことはできない。間違いなく、私にはこの男たちに触れられるだろうし、血を流させることもできる。だけど、春香の目の前で血を流すところを見させたくない。・・・せめて私が傍にいる間は。
‶眠らせるのであれば、是非私達の力を使って欲しい。貴方の力があれば私達が消えることは無い〟
私の力って・・・この場合どっちなんだろう。聖杯なのか、それとも四従士なのか。・・・まぁこの際どっちでもいいか。一番自然な方法は微精霊の力借りる以外なさそうだし・・・うん。
『あー・・・でも私微精霊の力借りたことは一回もないんだけど・・・』
それどころか微精霊を一時的に使役する呪文とかも全く知らないんだよね!精霊召喚した時もほとんど感だったし
‶・・・私達に眠らせろと、そう一言告げればいい。それだけで私達は貴方に力を貸すことが出来る〟
あれ。微精霊ってもしかして万能>・・・知らなかった。万能だからこそ精霊を使う事が難しいってこと?
あれこれと悠が考えていると微精霊が強く光る。
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