第60話

転移し、目の前に飛び込んできた光景に悠と翔は唖然と立ち尽くしていた。・・・多分隣に居る翔ちゃんも同じ顔してると思う。うん。

「すみません、翔先輩」

白い煙が充満する中、一人の生徒がこちらに近づき咳き込みながら謝罪の言葉を口にしている。一体何があった訳!?つかこいつ誰!?・・・ってどことなく隆斗に似てる気がする

「・・・何があったんだ?」

「翔先輩達が中々来なかったので先にお菓子を作ることにしたんですよ。昨日神乃宮先輩が作ってくれたレシピがあったので作れると思ったんですが、上手くいかなくて・・・お菓子を聖杯の術で焼こうとしたら、威力が強くてこの通り・・・」

そうまるで他人事のようにため息を付く。

その男子は髪色は唐茶ーからちゃ、薄い黄色を帯びた茶色の事を指すー髪型は上部部分に軽く丸みを付けている。さらにツーブロックで重めのマッシュルーム型の髪をしており両耳に髪を掛けている。

優等生の様な髪型ながらどこかお洒落さを感じさせる。瞳の色は洒落柿ーしゃれがき、柿の実の色からきた色名を指すーにやや柘榴色かかっている。

服装は制服は黒色のワイシャツ。上着はジレが取り外しできるようになっているが基本取り外さずそのまま着るようになっており、ジレは灰色で上着部分は黒。気持ち長めのブレザーに、左右の白の線が袖部分と襟部分に入っている。

左胸のポケットには白の校章が入っておりそこには金色の小さなバッチが三つ、校章の真上に付けられている。小さなバッチの表には一つのみ文字が彫られ、裏は四つ花と花言葉が刻まれている。

順にー上、右、下、左ーにはめると花の形になるように設計されている。

ネクタイは翔が付けている者は黒色を基準としているが黒ではなく黄色に白と茶色を混ぜたような少しくすんだ太めの線の両側にこげ茶の線が入り更に銀色のラメが入っている。下は白色のズボン。

くるぶしまである白色の靴下に黒色のストレートチップの革靴を履いていることからSSクラスだということは一目瞭然だ。

てかなんで聖杯でお菓子作ろうと思ったんだよ!どう考えも可笑しいだろ!誰もその違和感に気付かなかったからこうなってるんだけどさ!!

どう対処して良いのか分からず困った表情で翔に話をする。翔は話の内容を聞いている内に起きた事を大体把握したのか焦ることなくむしろ呆れながら聞いていた。

勿論私も呆れながら聞いてたけどね!?・・・そもそもオーブン使えばいいだけなんだよ!昨日使い方教えたんだけどな・・・

「大体のことは分かった。術を使った先輩達はどうしたんだ?」

「術が暴走している状況です。それを止めようとしているのですが難航しています。・・・僕は翔先輩達にこの事知らせるためにここにいるんですよ」

全く、あいつら使い物にならない。とでも言いたそうな雰囲気を醸し出している。待って。一応暴走してるのって先輩なんだよね?・・・腹黒いのか!?

と、その生徒がさらに話を進めようとしたところで悠が挙動不審になりながら話しを遮る。

「えっと・・・その前にさ、名前、教えてくれると助かるんだけど。」

そう。悠は覚えていなかったのだ。無理もないだろう。そもそもクラスメイトの顔さえも数回見ただけなのだ。他の学年の生徒達を覚えろと言う方が無理があるだろう。

でもどこかで見たことあるような気がするんだよな・・・と、疑問に思ったことを口にするとなぜか表情が硬くなる。ちょ、私何か変な事言ったか!?

「名前覚えろって昨日言っただろ・・・こいつは中等部3年の桜野邑斗ーさくらのゆうとーだ。隆斗の弟なんだよ!説明しただろーが・・・それにお前一回会ってるだろ。ルシーが来た時にお前が担当した所で治癒使ってたじゃねーか」

記憶全くないけど!てか覚えられる訳ないじゃん!・・・ん?待てよ。

「あー、そう言えば居た気が・・・って隆斗って弟居た訳!?」

「そこかよ!他に言うことねーのか!」

「特にないけど・・・逆に何言えばいい訳!?」

翔ちゃんってたまに意味わからないこと言うよな・・・と心の中で悪態を付きながら生徒、隆斗の弟である邑斗の顔をチラリと見る。・・・確かに瞳の色とか髪型とかそっくりだ。そりゃ見たことあるはずだ!と一人納得をし翔の横顔を盗み見る。

・・・先にこの煙どうにかしないと。流石に息苦しくなってきたし。それに

「っと・・・そろそろどうにかしねーとな。悠」

早くやれって顔してこっち見てくる者が約一名。邑斗が何とも言えない表情で翔を見ていることに翔自身気づいてはいない・・・てか、この惨事の理由に気が付いてるなら翔ちゃんがやればいいと思うんだよね!まぁ・・・私の周りにいればひとまずは安心だから傍を離れようとしないのは正直辞めて欲しいかな!

何故翔が悠の近くを離れないか。その理由はただ一つ。四従士が居るからだ。各精霊王の加護を得ている為、悠の近くにいればその恩恵を少なからず受けることが出来る。特に今回は煙が充満している為風の王の加護を得ている悠の近くにいれば煙から逃れられるのだ。

そんなの自分でどうにか出来る癖になんで私の傍にいるのかな!!

「・・・ここに在る空間。指定せしは霧。区切り風となりて転移しろ。部分空間転移、風」

悠がそう淡々と告げるように唱えれば風が巻き起こり白い煙と共に渦を巻きながら高密度に圧縮された風が四角く圧縮されると目ので瞬時に消失する。吹き荒れていた風は無くなり代わりに塔の外で一寸嵐のような風が巻き起こった。

「おい!それやるなら先に言えよ!!ここにいる全員殺す気か!?」

と、怒り心頭の翔だが無理もないだろう。この術は指定した物質もしくは目に見えているもの全てを風の力で全て圧縮し、その部分のみを転移させるものだ。

なお、術が発動しでいる数秒間は風により空気さえも圧縮されてしまう為室内での使用は原則禁止となっている。これを考えたのも、勿論labyrinthだ。作られた理由は、掃除が面倒だったからと言うこれまた酷い理由なのだが。

そしてこの術は、先程の説明通り空気さえ圧縮してしまう為その間息をすることが出来ない。失敗すればその場の物質全てが圧縮される危険性もあるのだが・・・粉系はこれが一番早いんだって!

「数秒なら死なないから。・・・それにさっさとやれって言ってきたの翔ちゃんだよね?」

「そうじゃねーだろ…やるなら初めから言えって言ってんだよ!お前が失敗する事なんてありえねーのは知ってんだよ!・・・こっちにも準備があるだろーが。」

なに?私褒められてるの!?それとも貶されてる!?どっちだ!?てか準備って何!?

混乱している悠に対し翔は若干顔を引きつらせているようにも見える。

「息止めるだけに準備も何もないと思うんだけど・・・それよりさっさと暴走してる力元に戻してやらないとそろそろ、ヤバいんじゃ?」

翔ちゃんがなぜか私に怒って来たから普通に返したらなんかあからさまに引かれてるんだけど・・・なんで!?

「はぁはぁ・・・あ、の一体なにが?」

「そうだな。外の空気とここにあった煙を圧縮させて入れ替えたんだよ。窓を開ければ煙が外に漏れるだろ?・・・先生たちに知られてみろ。ここ使えなくなるからな。一応考えてはいるんだけどな・・・お前は言葉が足りねーんだよ!」

そう言い悠の頭を軽くこつんと叩くと翔は天井を指差し話を続ける。まって!?思ったよりも痛いんだけど!?

「・・・この学園の全部屋には天井に埋め込み式の方陣があるんだよ。」

「あー・・・多分感知系の術式だと思う。異常があると方陣が発動する様になってるみたいだし?部屋に入ってすぐに天井を見たら天井の一角に煙が無かったけど方陣は発動してた。暴走した奴が咄嗟に結界でも張ったんじゃない?でも結界に反応したんだろうね。誤作動でどうにか誤魔化せるけど白い煙がある状態じゃ誤魔化せないでしょ。」

「思ったよりもよく考えてるんですね」

「それは俺同じ意見だな」

おいお前ら酷すぎるよ!?

納得したのか、深く頷きながら暴走している者達が気になるのか後ろを時々振り返りまたこちらを見て・・・と繰り返している。

「そろそろ、暴走している奴どうにかしねーとな・・・」

まるで重い腰を上げるようにそう言うと良好になった視界に映るある一角を見据える。

最初来た時は見えなかったけど今は良く見えるな・・・と翔と同じくある一点を見つめる。

暴走しているであろう者の周りで暴走を食い止めようとしている人数は7人。さらにその近くで意識を失い倒れている者が4人。そして悠と翔にいる邑斗を合わせ・・・ちょっと待って。昨日より人数減ってないか!?

暴走を止めようとしている者達の隙間から見える制服から判断できるのおは暴走してる者が大学部の人間である事さらに暴走を食い止めようとしている者達の大半も大学部生だ。

意識を失い倒れてるのは悠や翔が持っている制服から高等部生だと分かる。てかなんか倒れてるって言うより転がってね?

修羅場みたいになってる・・・修羅場か!!

「悠。とりあえず倒れてる奴らこっちに転移させろ。暴走連鎖が起きたらさすがにやべーからな」

「あー・・・確かに・・・転移」

倒れている者達全員を翔と悠、そして邑斗が居る場所へと即座に転移させる。・・・お菓子作りしてただけなのになんでこんなことになってるんだかと悠は小さく溜息を付く。

悠達が今いる場所は入口中央にある大きなキッチンの裏側だ。前にも話したが、個々は最新設備出てきている為キッチンの土台部分が既に頑丈に作られている為万が一のことが合った際でも耐えることが出来ると判断したためだ。

そして、今の教室内は変化し8つのキッチンが変形し9つ目のキッチンが現れている状況だ。

さらに冷蔵庫と言った機械が集まっている場所に暴走している者が居る為安易に近づくと二次災害、三次災害に発展する恐れがある。家具は廊下側に全て並べられている事が不幸中の幸いだろう

「邑斗も早くこっちにこい。・・・おい悠、なんでお前も隠れてんだ!お前も行くんだよ!」

「もうこれ先生呼んだっ方が早いって・・・てか翔ちゃんだけでも止められると思うんだけどなんで私まで!?」

「早く行くぞ!」

「ちょっ・・・この状況で引っ張る!?」

損のまま引きずられるようにして翔と共に原因の場所へと向かう。・・・これこそまさしくカオスってやつ?

暴走している者はそろそろ限界まで来ている様で何時意識を失っても可笑しくはなく、また暴走を食い止めようとしている者達もそろそろ体力の限界が来ているようだ。

「縛。・・・転移しろ」

縛の術は難易度が低いが、相手を直接縛ることが出来る唯一の術だ。

掛けられた者は見えないピアノ線の様なもので縛られ身動きが取れなくなる。が、術者はその糸が見えている為聖杯のコントロールでいかようにも出来る。最悪殺すことも可能な術だ。

それに至るまで精密な力のコントロールが必要となってくる。そうして暴走している者の動きを封じ周りにいた7人の者達を先ほど翔や悠が居た場所へと転移させた。

いや、ほら・・・やっぱり私必要ないじゃん!?

「聖杯召喚。・・・断ち切るは相殺。求めるは清浄。刀に宿れ。・・・昇華相浄!」

悠がそう思っている間に翔は聖杯召喚を終え術を唱えて自身の具現化させた刀に宿らせると暴走している者に向かい斬りかかる。

この術は暴走している対象者のみ攻撃可能な術となっている。暴走している力を断ち切り相殺させ弱ったcardに直接浄化を行えるものだが術者の力の完璧なコントロール・対象者の暴走度・回りの状況など条件がそろわない限り使うことが出来ない術でもある難易度は極めて高く通常使われることのない術でもある。

今回、暴走者が居り半径一メートル以内の人間及びそれ以外の種族が3名以上。さらに半径5m以内に暴走者の力を浴びた者達が5人以上存在し聖杯の力が高いものが二人以上存在する事によって条件が満たされている為発動できたのだ。

最後の条件である聖杯の力が高いものに関しては二人分を補う力を持っていれば二人以上存在せずとも発動条件は満たされる。・・・いや、これやっぱり私いらなくね!?翔ちゃん一人で二人分余裕で補えるでしょ!!

斬りかかった後、静かに暴走した人は倒れた。

「ったくお菓子作りに聖杯使ってんじゃねーよ・・・」

翔は具現化を解くと同時に縛の術も解き、軽く治癒を使いながらそう文句を言う。

いやぁ、まあそうなんだけど翔ちゃんも私が居なかったら聖杯に頼りそうな気がするんだけど・・・って言ったら怒られそう

「あー・・・それにしても物とか部屋とか壊れなくてよかったね!その術そもそも相殺するから壊れないの分かってはいたけどね!」

「大体の原因全部お前のせいだけどな・・・」

「え、よく聞こえないんだけ・・・嘘嘘!!冗談だから!具現化解いてくれない!?」

なんで聖杯召喚するのかな!?

「僕に手伝えることがあれば何でも言って下さい。なので、ここで痴話喧嘩はちょっと・・・」

翔と悠にとっては通常通りだが、やはりあまり深くかかわっていない者達には喧嘩に見えるらしいが邑斗は少し違うようだ・・・うん。喧嘩してないから!!てか痴話喧嘩ってなんだ!!


そこから翔の行動が凄まじく速かった。


倒れている者達を全て癒し翔の指示で仕方なく術で強制的に目覚めさせた。

だって翔ちゃんがやれって言うからさ!!

強制的に意識が戻った者達の顔色は悪く乗り物酔いに近い症状に見える。

実は・・・強制的に目覚めっさせるやつやると酔ったみたいに気持ち悪くなるっていう代償があるんだよね!

だから緊急時の時以外誰もやりたがらないんだけど、ある意味緊急時なのは否定できない!そして必ず術者が怒られるって言うオプション付きなんだよ!

さらに今回高等部生及び大学部の上級生の落ち込みが酷く散々謝らていた悠だか、なんか居た堪れない気持ちになったよね。

全員が落ち着ち付き、いざお菓子作りをと言う所で今日来てない者達が用事がありくることが出来ないことを悠は知った。・・・私だってさぼりたいのにさぼったのかなんて思ってないから!!

そこからは安易に想像がつくだろう。言うなれば・・・やはりカオスと言う所だろう。

本当に食べ物じゃないものができる人がいるんだって事が分かったよ!なんなのあれ?どうしたらあんな得体のしれない物が出来る訳!?・・・もうやりたくないんだけど!!と悠は心の中で叫んだのだった。


「凄い疲れたんだけど。ねえねえ。なんで私こんなに疲れてるんだろうね?翔ちゃん」

「おい・・・分かってて聞いてんだろお前!」

翔の機嫌の悪い声が悠の想像していたよりも大きく思わず耳をふさぐ。・・・うるさっ!

気付けば既にお昼休みに入っており、学園内は生徒達でごった返していた。

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