第57話

「私が名乗っていた乃宮梓ーのみやあずさーって名前は春香も知ってると思うけど偽名。本当の名前は神乃宮悠。」


「かみのみや、ゆう・・・それが本当の名前なんだね。」

「そうだよ。それと・・・「本当は全部分かってるよ!理事長先生に聞いたの。聞く前から本当はそうなのかなぁって思ってたんだ。聖杯所持者なんだよね?私がどれだけあず・・ゆ、悠ちゃん?と一緒にいると思ってるのっ!」

「流石春香だね。・・・大体の事は女子校の理事長から聞いてるなら説明しなくてもいいよね?」

「うぅ・・・でもっ聞いたこと以外にも絶対っ!隠し事してるよねっ?」

「・・・まぁ、うん。」

女子高の理事長に大体の説明を受けていると言っていたが、それは女子校の生徒全体の事を占めていることを悠が気付くのはもう少し後になる。

春香の押しに悠はつい同意してしまうが、そんな悠に対し春香は怒る事は決してしなかった。

「いいのっ!・・・言ってくれるまで待ってるよ?それにね。気づいてあげられなくてごめんねっ・・・あず、あずっ・・悠ちゃんっ」

「春香が謝ることなんてないんだからそんな顔しないで・・・そもそもバレない様にしてたんだからバレてた方が困ってたかも。」

そう言い再び頭を撫でると春香は膨れ顔になりその後笑顔で笑いかけて来た。・・・良かった!!泣かせるかと思った!!と内心大声で心の声を叫んでいると、

「・・・話終わったみてー、だよな?」

話が一段落ついたと判断した翔がこちらに話しかけてきた。春香はまた私の背中に隠れたけど

「あー・・・翔ちゃんでも空気読めるんだね!って・・・ん?春香?」

翔と悠をちらちらと交互に見ながら何か言いたそうな表情でこちらに訴えかける。腕にずっと引っ付いたままだけどね!

「そ、想像と全然違うよ!悠ちゃん!・・・本当にあのツンデレで少し変態さんな可愛い翔ちゃん、なの?」

春香から飛び出したのはそんな思いもよらない言葉だった。

え、もうその呼び方慣れたの?早くね?てか私そんな風に教え・・・たな!!うん!

「あぁ、本人だよ、本人!・・・認識間違ってないから安心して春香。」

納得した振りをしつつも、悠の頭の中は混乱していた。突然何言い出すかと思ったら春香は翔ちゃんの事一体どんな想像してた訳!?

「おい・・・安心出来ねーに決まってんだろ!!お前一体そいつに何吹き込んでんだよ!!」

予想外の春香の言葉に戸惑いながらも悠を攻め立てるように言う翔だが悠は気にすることもなく話を続ける。

その間にも翔は悠に不満を漏らしている。

「まぁ、そんな事よりも・・・女子校に戻らなくてもいい訳?寮から抜け出したって分かったら大変な事になるでしょ?」

こちらの言葉にバツが悪そうに歪な笑みを浮かべた後、言葉を濁しながら春香はこう言った。

「あのね、・・・私がここに来たのはあずさちゃ・・・悠ちゃんに言わなきゃいけないことがあるからなの」

「私に?」

真剣な表情に悠は戸惑いながらも真っ直ぐ春香を見る。春香の瞳には強い意志と不安が見え隠れしている。・・・もう予想はついてると言うか聞こえてるから分かってるんだけどね

「う、うん・・・私星使いなんだ…信じてくれるかなぁ?」

『星使いって・・・・天使使い!?』

悠が口を開く前に、クラス全員の声が夜の棟内に響き渡る。

・・・ってか、本当によく同じタイミングで叫ぶよな!!耳が痛いわ!完全に辺り一帯に響き渡ってるよこれ!!

悠は春香が言葉にした‶星使い‶よりクラス全員の声が重なったことに驚きを隠せないでいるようだ。


そう、最初から知っていたのだ。

彼女が、春香が‶星使い‶だということに。


‶星使い‶又は‶天使使い‶と呼ばれるそれは聖杯所持者が使役できる者達だけではなく全種族、悪魔、天使、堕天使、精霊、天使と使役できる者達との契約を交わすことが出来る。

聖杯所持者と違い力の有無での契約ではなく力など関係なく無限に出来ると言われている。

星使いがどう行った経緯で生まれたのか不明であるが確認されるようになったのがlabyrinthの隣に途中から寄り添い力となったと記述が残されているからだ。

そして驚くことに‶星使い‶は女でありながら聖杯とは異なる力で戦うことが出来る聖杯所持者とはまた特殊な人間だ。

何故星使いが天使使いと呼ばれているのか。それはlabyrinthと常に一緒に居た星使いが特に天使を召喚するのに長けていた為‶星使い‶または‶天使使い‶と呼ばれるようになったのだ。

だがこの‶星使い‶の力は聖杯と違い本人には自覚が無い為自身が‶星使い‶だと気づくことなく死んでいく者が殆どだが稀に感覚が鋭く周りに飛んでいる微精霊を認識し使役し自覚してしまうことがある

。また、厄介な事なのだが契約する際の言葉を破棄し、契約をしたいと願い生まれた言葉によって本契約が完了してしまう。

‶星使い‶と自身が自覚出来るのはその本契約を結び終えた後だ。

・・・まかこれ全部書物に書いてあったことなんだけど。私も実際に見たことなかったから初めは春香が異常に精霊や可笑しな程天使に好かれるな・・・くらいの認識だったからね!

「あわわわ・・・あの、えっと。小さな頃からたまに私の周りに何か浮いてるきがしてたの。気のせいかな?って思ってたんだけど・・・悠ちゃんと会ってからね、白い小さな羽が生えた女の子が私によく何かを話しかけて来たり、周りに丸い光が光がどんどん増えて凄くぐるぐる回ってたりすることがほとんど毎日続いたの・・・」

あー・・・あれか。聞こえるようになるとなるで私の場合は怒られたな・・・懐かしい

悠も同じ様になったことがあるのかそれを思い出し苦笑いする。

「うわ・・・それは地味に辛いやつだ。ぐるぐる回られた時は前が見えなくてどうしようかと思ったから、春香はそれより酷そう。」

私も前に周りをひたすらぐるぐる回られたことあるけどあれは辛かった!

悠の言葉に春香は小さく苦笑いをし頷き話を再び続ける。

「悠ちゃんもあるんだね・・・それで、悠ちゃんが男子校に編入しちゃった少し後からね。頭の中で見たことのない文字が浮かんだとおっもったらね、知らないのに読めちゃったの・・・。口に出して言っちゃったからなのかな?周りに飛んでた子達が何を言ってるのか分かるようになっちゃったり周りに浮いてた光が精霊だって分かるようになっちゃって」

それを聞いた皆の心の声は大体が同じだった。

‶これ理事長に聞かせたら即転入させられるんじゃ・・・‶

勿論悠も同じ考えになった。何故なら悠自身が理事長の権限で強制的に転入させられているからだ。

絶対この部屋に来るな…てかもう向かってきてるんじゃね?と心の中で少し悪態を付きながら春香を見つめる。

「よく聞いて。それは完全に‶星使い‶として覚醒したって事。・・・覚醒する前は私が、覚醒した今はまだ近くに私の他にも翔ちゃんや力の強い人達がいるから怖がって近づけないだけだけどその力を悪用する人間や勿論精霊や天使と言った他の種族が出て来て春香が狙われてる。今も既に気配を感じるけど幸い結界内だから大丈夫だよ。」

‶星使い‶、か。確か星使いの名の由来は・・・そうだ。

‶全ての星を味方につけ、災厄訪れ危機が迫りし時神の力が目覚め星が降るだろう。朝は仄かに、昼はわずかに、夜は激しく光力を得る。

それが‶星使い‶の役割であり宿命‶

由来所かなんか色々は?なにこれって思う事書いてあったけどやけに夜なのに明るいなと思った。

「春香が今まで怪我や命を狙われなかったのは周りにいた微精霊や天使と言ってもそれ生まれたばかりだから天使もどきみたいなものだけどまぁそのおかげだと思うよ。だけど完全に‶星使い‶に覚醒して自覚もしてるとなるとこれから凄く大変になると思う。」

全種族を使役することが出来るのが狙われる一番の理由。今の春香にはまだ無理だと思うけど・・・

「それに、春香って小さい頃から悪魔本当は見えてたでしょ。」

「・・・うん。えへへ。やっぱりあず、悠ちゃんは凄いねっ!」

そう言った春香の表情は何故か穏やかな笑みが浮かんでいる。話ひと段落し、クラスメイト達は各々春香に好機の視線を寄せ春香は再びこちらの背中へと隠れてしまった。あーそれにしても・・・どうしようかな!!

「これ理事長に言ったらどうなると思う?・・・翔ちゃん」

「間違いなく編入させられるだろーな。お前と全く同じパターンだろ」

近くまでやってきた翔に悠は答えが分かっていながらもついつい聞いてしまう。が、翔の答えはやはりこちらが考えている事と同じだった。

だよね!だと思ったよ!!編入させられるよな!

「・・・また増えるのか」

「女の子がぁ増えるのは歓迎ぇするよぉ!」

「また大変な事になりそうだね~」

春香を見ると視線を逸らし伶がそう一言興味がなさそうに言い放ち続けざまに嬉しそうには寝ながら笑顔の有稀と‶面倒ごとはごめんだ‶とばかりにやる気のない新の声が聞こえる。

「え?え?なに?」

だが春香は性格故自身が重要な事を悠以外に聞かれてしまっている事や強制的に編入させられてしまうとは思っていないせいかおどおどと悠を見つめる。

本人が全くの無自覚って事が一番大変なんだよね・・・と遠い目をしていたがすぐさま真剣な表情で教室の出入口を見つめる。

さて・・・これはそろそろ呼ばないと私が理不尽に怒られそうだな、と出入口の方を見据え悠が口を開いた。

「・・・勿体ぶってないでとっとと出て来てくれませんかね?理事長」

「やっぱり最初から気づかれちゃってたみたいだね!」

なにこのテンション・・・今何時だと思ってるんだよ!この人何時まで起きてる訳!!

教室に入って来たのはいつも以上にテンションの高い理事長だった。悠の心の声とは裏腹に理事長は機嫌よくスキップをしながら近づいて来る。

・・・まぁそうだよね。結界内に男子校以外の人間が入れば分かるだろうし風再と水慈も呼び出しちゃったからバレるよな!

『理事長!?』

そしてやはりクラスメイト達の声が重なる。

気づいていなかったようで皆驚いているが翔達は嫌な予感がしていたのだろう。

頭を抱える翔とニコニコと笑顔の有稀に興味本位で春香と理事長を見る新に興味がないのか眠る準備を始める伶とかなり個人の動きが目立つ。

って伶この状況で寝る気なのか!?あ、翔ちゃんに止められてる・・・

「やっぱり悠ちゃんは凄いね♪・・・・さて、初めましてかな?僕は男子校の理事長だよ。よろしくね!」

「あ・・・私は小日向春香ーこひなたはるかーと申します。ご挨拶遅くなってしまい申し訳ありません。」

理事長を見るなり交流会などで見たことがあったのだろう。春香はスッと悠の後ろから前に出るとそう言い深々と頭を下げる。

出会ったときからこういう所はしっかりしてるんだよな・・・春香。

春香の受け答えを見て何かを納得したのか理事長は楽しさと嬉しさを滲ませにこりと笑みを浮かべた。・・・一体何を見て納得したんだ!それにその笑み・・・嫌な予感しかしないんだけど

「君、男子校に編入してみない?」

ナンパ!!・・・まるでナンパの様に軽く、余りにも軽く春香にそう一言言葉を投げる。

「やっぱり言うと思った・・・春香をこの学園に編入させられない。私と同じような事はルカにも言わないで欲しいんですけど」

‶無理にでもは行って貰わないと僕が困るんだよ‶

はっきりと、心の声が聞こえる。まるでわざと心の声を読めるように仕向けたかの様に悠は怪訝な表情で理事長を見る

「悠ちゃん。・・・君には話してないよ?今僕は小日向春香と話しているんだよ?」

にこりと笑い首を傾げる理事長の目は笑ってない。まるで人形のような動きに鳥肌が立つ。それは春香も同じようで小刻みに震え顔色は青白くなっており悠よりもその様子は明らかだ。

突然は辞めて欲しいな!!せめて怖くなるならなるって言って!!

・・・悠は、悠であった、

「わ、わたしは・・・」

「これは決定事項だよ♪」

春香は理事長の迫力に圧倒され目線を合わせられずに俯いている。

ようやく鳥肌治まった・・・と腕を摩りながら春香の後姿を見る悠。

てか殺気から本当に!声と口調がまったく一致してないんだけど!?真剣な声なのにどうしてそういつも通りの口調な訳!?

「このやり取り前にも見た気がしねーか?」

「見たことあると言うかむしろ前より強引な気がするよ・・・」

翔が小声でそっと近づきながら理事長と春香の様子を見ながら悠に話しかけ悠もそれにこたえていると背後から伶の声が聞こえた。

「・・・夜中に理事長がここにいることを誰も疑問に思わないのか」

思うけど子の状況で口に出せるのは伶だけだと思う・・・と悠は口に出す事は出来なかった。何故なら間違いなくこの会話は理事長に聞かれているとそう思ったからだ。

「・・・む、むりですっ!!」

春香は理事長の申し出を怯えながらも真っ直ぐ見据え断った。それを見ていた悠は‶何も知らないって怖いな・・・‶と思いながら見ていた。

「君が不安に思っている事は僕に任せてくれていいよ。どうとでもできるからね♪それに、ここにいる間は絶対に安全だよ」

春香はその言葉に目を開いて驚いた表情で理事長を見つめる。・・・春香も色々事情があるのは聞いてたけど色々が深そうだな

「しって、るんですね。・・・・・・分かりました。男子校に編入しますっ。悠ちゃんもいるもん!」

「春香!」

理事長の提案を受け入れることは無いと思っていた悠にとってはルカのその言葉は予想外だ。その為追声を荒げるが春香は笑顔でこちらを振り返り、再び理事長の方へ向くとこう言ったのだ。

「いいの悠ちゃん!・・・けどっ!悠ちゃんと同じクラスにしてくれないなら編入しません!寮だって、悠ちゃんと同じ部屋か近くの部屋じゃないと嫌です!」

「いいよ♪」

必死に理事長に訴える春香だが理事長はいつも通りの口調であっさりと肯定した。

え、いいんだ!?とこちらが思っているが翔達も皆同じ表情をしてた為心を読まずとも考えていることが同じだということがすぐに分かった。

「手続きは僕がやっておくよ!書類は君の部屋が決まったら一緒に置いておくよ!・・・忙しくなりそうだね♪」

理事長は楽しそうに悪だくみな表情を浮かべながらさっさと転移で教室から去ってしまった・・・え、待って!!この後春香はどうすればいい訳!?つか私達もどうすればいいんだよ!?

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