第54話

「交流会って言うのはね。交流するんだよ。」

悠が期待していたものはいとも簡単に砕けた。

いや、そうだとは思うけど!そう言うことじゃないんだって!

「・・・はぁ?」

「ここ男子校は他にもいくつか同じ系列の学校を運営してるんだよ。その中でも女子校は男子校と唯一の分校なんだよ。だから年に一度交流会をして仲を深めてもらってるんだよ♪」

うん。それを先に言って欲しかった!!

「だけど毎年絶対何人か仲を深め合い過ぎる子達が居てね・・・男子って馬鹿な子だよね♪」

いやいや・・・そう言う理事長も一応男でしょ。見た目小学生だけど。てか私にそれ言ってもいいのか!?

「つまりだ。他の学園や学校で言う身内のみでやる文化祭だと思っておけばいいんだよ」

理事長の話しに溜息を付きながら横に居る翔に呆れた表情でそう言われる。そのあきれ顔はこちらに向けられたものではなく理事長に対してだということはすぐに分かるだろう。

文化祭か。てか、それ間違いなくめんどくさいことになるんじゃね?あの理事長の笑顔からして嫌な予感しかしないから!

「交流会はその日が近づいたら言うよ!・・・でも困ったな。次生徒がやらかしたら僕殺されちゃうかもしれないね♪」

困っている様には見えないのだが、内心困っているのだろう。浮かべている笑顔が少しだけ曇ったようにも見えた。

そこまでやらかしてるのも驚きなんだけど、多分殺されるとか言ってるの女子校の理事長にだよな・・・考えるのやめよ!

「で、交流会なんだけど今回は悪魔の襲撃があったから遅らせて二週間後にあるんだ♪」

「・・・は?今なんて?」

「交流会まで残り二週間なんだ♪」

理事長のその言葉に悠だけでなくその場に居る全員が驚愕に満ちた表情で理事長を見る。

翔は顔を青ざめ有稀は嫌な表情が全面に出ている。

新はめんどくさいな、と心の中で呟き伶は内心一番焦っているのが分かる。

ジーンに至っては‶二週間も期限があるなんて楽に出来そうだよ‶と心の中で呟いている始末だ。

しかしその状況にした元凶である理事長は気づいているが気に留めることなく話を続ける。

「だけど全く準備が出来てなくてね・・・生徒会のメンバーが全員帰ってこなかったからなんだ♪」


‶それはあんたが行けって言ったからじゃ・・・‶


悠達の心の声が揃った瞬間でもある。てかこの人一体何言ってるの?凄い勝手なんだけど気のせい!?

「でも生徒会のメンバーはもういるから大丈夫だね。あまり手が込んだものだと準備できないだろうから、去年と同じ様にお菓子を配ればいいよ!今回は手作りにしようか♪初等部と中等部。それから高等部と大学部は全部それにしよう!あ、お菓子は個数限定にすればいいよー♪」

「え?」

「は!?」

「えぇ…!?」

「・・・試練か」

「本気なんだね~!?」


順に悠、翔と驚きの声を上げ有稀もほぼ同時に声を上げる。

その後伶がぼそりと戦地へ向かう様な低い声絶望したような声を出し新は心底楽しそうなしかしどこか驚いた声をそれぞれ出す。

ジーンは何が起きるのか分かっていない為笑顔を絶やさず悠の驚いている表情を見て首を傾げている。

今の聞き間違え・・・じゃなさそうだな。うん。無茶苦茶すぎるし!!急すぎるし!?

「生徒会には存分に働いてもらうから、ね!期待してるよ♪」

そう言う理事長の表情は今までで一番の眩いほどの笑顔だった。

そんな楽しそうに言われても!私達還って来たばっかりなんだけど!?き、鬼畜!鬼畜過ぎる!この・・・いつか禿げろ!!


なんてことがあった。・・・思いだしたらなんかまた腹立ってきた!

「あのハゲ!」

「・・・ハゲてはねーだろ」

「・・・何故俺に聞く」

悠の発狂振りに困った翔は丁度いいと後ろにいた伶に話しかけるが淡々と真顔のまま返答を返した為話をそれ以上広げることが出来ずあっけなく会話が終わる。

「そんな焦ることな訳?」

「当たり前だろ!いつもは外部発注してんだけどな・・・今回時間無さすぎなんだよ!発注が間に合わねー!」

翔がそう言い蹲る勢いで叫んでいるが悠はあることを思い出していた。

‶小日向さん!交流会でお菓子をいただいたんですよ!‶

‶すごく美味しかったよ!料理もできるなんてすごいですね!‶

‶いつもこの日はお休みしてますけどさんも来れたらよかったですよね‶

謹慎処分が解かれてから学校に行ったら、すごい交流会のことを語られたのを思い出した。・・・外部発注だって分かったらかなり落ち込むんだろうな。てか、作れる人居なかったのかよ!

「が畏怖発注に頼り過ぎでしょ!自分達で作ろうとか思わなかった訳?」

「・・・料理できない奴がどれだけいると思ってんだよ」

「・・・そう言えばそうだったってそんな堂々と言われても!?」

男子校一日目にして料理が出来ない事を目の当たりにしている悠は呆れた表情を浮かべながらそう言う翔に納得しつつ余りの堂々とした言葉に思わずツッコミを入れてしまう

堂々と言える台詞じゃないと思うんだけど!

「でも流石に全員作れない訳じゃ・・・全校でどのくらいいるのさ、料理したことある奴って。」

どうせ大した人数居ないとは思うけど!でもせめて50人くらいはいるでしょ。この学園人数凄いし

その問いに、意外な人物が口を開いた。

「・・・初等部0人。中等部1、2年は居ないが3年は1人。高等部1年3人、2年は0人、3、4年は3人、5年は4人。大学部は1年5人、2年4人」

「・・・丁寧にどうも。」

怜が答えるとは思ってなかったけど、と悠は心の中で静かに思う。

「一応聞くけどその中でお菓子作りしたことある人は・・・」

「いる訳ねーだろ!・・・簡単な物なら俺とあいつが作れるけどな・・」

「絶望的!」

だよね!そうだと思ったよ!絶対無理だ!柄あいつって誰だあいつって。

そう思っていると、翔が少し考え込み

「いや・・・一人だけいるな」

心当たりがあるようで呟くようにそう言う。

「え。誰かいたっけ?」

悠が聞き返す言葉にかぶさるように翔がこちらに向かい指を指す。

うん。・・・なんとなく分かってたよ。結局こうなる訳な!でも指を指すのは止めよう!?

「お前の料理の腕前は他の奴らも知ってるからな。安心できんだろ」

何であの時料理作ったんだよ私!てか、安心って何?安心って。

「だけどぉ問題は解決されてないよねぇ!

悠が心の中で思っているその間にも殆ど話せないまま翔達の話が進んで行く

何でそんな楽しそうに!てか誰も否定してくれない!否定されても嫌だけど!それに誰も私の意見を聞こうとしないのはなんでだろう・・・!

「そうだね~・・・お菓子を作れる悠ちゃんと簡単だけど何とかできる二人しかいないのは問題だよね~」

「女子が好む内装とかも俺らじゃわからねーしな・・・」

「・・・今から動かないと無理だな」

悠が遠くを見ている間に話は急速に進んで行き既に初めから悠が作る側として数えられている。

・・・え、私が動くこと決定してる!?

「ちょ・・・」

「・・・よし!一週間全生徒は泊りがけで準備だな!」

マジで?一週間も!?

此方の言葉を鼻から聞く気が無いのかそのままスルーされ早速準備に取り掛かろうとする翔達に意見を述べるため口を開くが時すでに遅し。

「冗談じゃない。私はかえ「駄目に決まってんだろーが!お前が休んだら何も出来ねーんだよ!」

「・・・はぁぁぁぁぁぁ」

「理事長が決めたことだからな。溜息止めろ俺もやりたくねーよ!・・・だけどな。お互いやるしかねーだろ。」

「うげぇぇ・・」

これがまさしく決定事項と言えることだろう。理事長のあれはけっってい事項じゃなくてもう強制だから。理事長の立場を利用してるだけだから!

やるしかないんだろうけど・・・正直やりたくない。だけど、帰ってきてそうそうまためんどくさいことに巻き込まれた・・・

‶寝たいし眠いし疲れてるんだけど・・・‶と言ったら翔ちゃんに‶散々寝たから大丈夫だ‶と笑顔で言われた!

どうやら逃げ場はないようだと悠は悟った。

こうして私達は帰って来てから早々、交流会の準備をすることになったんだけど・・・

余りにもやることが多く猫の手さえ借りたい状況になるとは予想もしていなかった。


「・・・という訳だ。やってくれるよな?」

翔達は直ぐに動き、放送室がある第二職員室まで走り、集会場に集まるように初等部以外の全学年に放送した。・・・そもそも放送室があること知らなかったんだけど!

「理事長みたいにやらない訳?」

「あれは緊急時にしか使えねーんだよ。そもそも俺達返って来たばかりだろ!そんなほいほい使えるもんじゃねーんだよ!」

なんか怒られた・・・聞いただけなんだけど!!私ここに来てまだほとんど経ってないから!!分かってる・・・って聞いてもない!!


集会場に人数が集まると舞台上で大まかな説明をし、てきぱきと指示を出していく翔。有稀と新。そして伶と悠は舞台袖でそれを見守っている。

てか・・・翔ちゃんが笑ってる。やっぱり人前では笑うんだ。

「なんか高等部の人数が増えてね?」

「授賞式の時はねぇ5年生と6年生は合同でぇ実習があったからぁいなかったんだよぉ~」

「高等部全クラス集まってないの説明してたと思うけど~・・・?」

その聞いてなかったんでしょ~?って顔止めろ!二人とも楽しそうにするのやめてくれ。

「・・・って実習?」

「そうだよぉ~。悪魔と戦う実習だよぉ~。僕たちは外に出て実際に戦ってるからぁやらなくてもいいんだけどねぇ」

「SSクラス以外のクラスはその実習をしないと単位を取れない」

行き成り会話に入ってくるのなんか心臓に悪いから辞めて欲しいな・・・怜。

なんかめんどくさそうな授業だな・・・SSクラスである以前に悪魔達と戦ってきた私には関係ない話だな。

「あぁ、これは理事長からの命令だからな。異論がある奴は理事長に言ってくれ。ここからが重要なことになるんだけどな・・・」

翔ちゃんが説明しているのを軽く流しながらも全体を眺める。

「今回、準備期間が短く日にちが変わるなどイレギュラーな事が起きているが一番問題なのは外部発注をすることが出来ないということだ。。ここにいる全員で作らなければならないがそれはどう考えても無理だからな。料理が作れる人数は既に把握済みなんだがな・・・」

良くあんな風に口回るよな・・・なんて他人事のように考えていると突然視線を感じた。

満面の笑みを浮かべた翔ちゃんが手招きしてる・・・恐怖を感じるよ!

「悠ちゃんのこと呼んでるよぉ」

「あれは怒ってるみたいだね~!」

「・・・早く行った方がいい。俺達も呼ばれているようだ」

隣にいた有希、新、怜が口々にそう言う。おいちょっと楽しんでないかこいつら!・・・いつの間に呼ばれてたんだ!

溜息を付き少し小走りで翔の元へ行く悠に‶人の話しスルーしてんじゃねーよ!‶と心の声が聞こえる。背後からは有稀と新は手を振り怜は背筋を伸ばしたままのんびりとした足取りでこちらへと近づいて来ているのが分かる。

・・・話聞いてないのバレてた。つか後ろの三人の方が酷いと思うんだけど!

「先程名前を呼ばれたのは神乃宮悠を中心にして動いてもらうことになる。特に各学年のSSは仕事が多くなると思うが、そこは大目に見て欲しい。大学部の1、2年にあまり負担を掛けないように高等部を中心に仕事を回すつもりだ。」

てか、私ここにいる意味は?なんで呼ばれたのか分からな・・・そう言えばなんか勝手に生徒会だっけ?に入れられたんだった。・・・でもいたたまれない!

「神乃宮悠から説明があるそうだ。」

翔ちゃんはそう言うと私の腕を引き、場所を入れ替わった。・・・一体何を説明すればいいのか分からない!突然すぎる!

‶適当に少し前に話したこと説明したらいいんじゃねーか。聞こえねーか‶

・・・ばっちり聞こえてるよ!

翔の心の声に反応し、悠は少し肩の力を抜き気まずそうに口を開いた

「あー・・・今回はとにかく簡単で色々な物を作ろうと思っているんだけど。お菓子だけじゃなくて、飲み物もあればいいと思う。・・・そうだな。中身の違うのを三種類作って選んでもらえばいいんじゃない?飲み物も同じで選んでもらえばこっちも楽だし。ね、翔ちゃん」

隣にいる翔にそう話しかけると心底‶俺に話を振るな‶と顔を歪ませこちらを見る。いや、その表情したいの私だからね!翔ちゃんだってさっき私に話降ったよね!?

「他に伝えることはあるのか?」

・・・あ、これ完全に私の言葉スルーするつもりだな

「今回は生徒会じゃないかった。理事生徒会の独断と偏見で物事を進めることにると思うけど、もし質問等などがある場合は全てこの隣にいる会長に言ってください。何でも相談に乗ってくれるみたいなので。・・・以上です」

ぎょっと驚愕した表情でをこちらを一瞬見たが、気が付かないふりをし悠は話を終わらせる。そして直ぐ翔は悠の腕を引っ張ると軽く後ろの下がらせる形を取り再び話し出した。

「・・・という訳だ。これから準備に取り掛かる。準備期間中はなるべく各教室で準備、または待機していて欲しい。寮に戻り、必要なものを取りに行った者から順に準備に取り掛かってくれ。解散!」

他の生徒たちは戸惑いながらも、ぞろぞろと集会場を後にするが何か言い忘れていたことを捥いだしたのか翔は慌てて言葉を続けた。

「また、中等部3年から高等部5年の中で生徒会のメンバーに声を掛けられた者は教室に戻らず本部前に集合だ。以上で理事生徒会、交流会の件を終了する。」

その言葉に皆耳を傾け、翔の話しが終わるや否や瞬く間に集まっていた生徒達が各教室へと戻っていく。

・・・私いつまでここで立ってればいいんだろう

「お前も勿論本部前に集合だからな」

殆どの生徒が居なくなった頃、突然翔がこちらを向くと当然の様にそう告げた。

「なんで私まで集合しないといけない訳?」

「お前が一番料理の腕がいいからに決まってんだろ!!何のためにお前の名前を出したと思ってんだ!」

「なんか褒められてるはずなのに凄い怒られてるんですけど!!」

なんとなく分かっていたけど、私本当に完全に戦力だと思われてる訳な!人数把握もその為かい!

「俺達は早めに本部の入り口まで行くんだよ。・・・俺も行きたくねーけど行くんだよ!」

「ドンマイ翔ちゃん!」

そう言い自分は関係ないと言わんばかりにこっそりと逃げようとした悠だが…

「お前も行くに決まってるんだろーが!」

時すでに遅しとはまさにこの事だろう。

結局満面の笑みを浮かべ少し怒りが困った眼差しの翔に手首を掴まれ引きずられるように集会場を後にしたのだった。


「全員揃ったみたいだな」

周りを見渡しながら人数を確認する翔から離れた場所で疲れ果てているのは、悠である。

なんでこんなに私だけ疲れてるんだ…

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