第53話

「帰って来たみたいだね。おかえり!」

暖かな部屋で息を吹き返したように元に戻った翔達を出迎えたのは理事長の声だった。

プレジデントデスクに座っていたようでそのまま此方へと歩いて来る。・・・なんか理事長っていつ見ても何も変わらないよな。成長止まっちゃったのか・・・

「成長止まってないからね!帰ってきて早々流石悠ちゃんだね♪」

いや、なにが?・・・ってまた口に出してたのかよ私!あ、でもなんか怒ってないしむしろなんか

凄く嬉しそうだからいっか・・・いいのか?

いつもとは違う理事長の雰囲気の戸惑っていると少し高くなんだか緊張感のない有稀の声が聞こえた。

「報告しにき来たよぉ!」

緊張感無いのはいつもの事だけどさっきまでのあの死にそうな感じはどこ行った!?

皆今回はそれぞれ好きな場所に立ちソファーに座る者は誰もいない。それもそうだろう。一度座ってしまえば疲れが出てしまい立てなくなるのは目に見えて分かっているからだ。ただ一人を除いては、だが。

悠は既に眠ったことにより体力と力の両方を回復させているが皆が座らないため仕方なく立っている状況だ。

「じゃあさっそくだけど報告してもらうよ♪」

またしても緊張感のない会話に悠は深く溜息を付きそれ以上突っ込みを入れる事を止めた。もう疲れたわ・・・

その様子を見ていた翔は苦笑し悠の頭を軽くポンと触ると代わりに簡単な説明と共に数十枚あるであろう紙の冊子を手渡した

「詳細はここに。じゃあ俺達は教室に戻ります。」

ってその分厚いのはなに・・・いつの間に作ったんだあれ!?間違いなく私が寝てる時だよね!うん。てか何書かれてるのか分からなさ過ぎて怖いんだけど?!

「じゃあ教室戻るねぇ」

「・・・失礼します」

「え?これだけの為にここに来た訳?・・・あんなに寒い思いまでしたのに?」

「それは言うなよ…!」

用は済んだと皆それぞれあいさつ・・・果たしてあいさつになっているのかは微妙な所だがあいさつをし各々理事長室からそそくさと出て行こうとする。え、マジでこれだけ?あんなに苦労したのに?

「あぁ、そう言えば大事な話をしてなかったよ!まだ帰らないでよ♪」

納得できない悠は悶々としながらも後を追おうとするとタイミング良く理事長が若干威圧的にこちら側を止める。

グダグダだったからな・・・ってこれ威圧じゃなくて完全に楽しんでる時の話し方じゃね?

悠達はお互い顔を見合わせ理事長に促されいつもの定位置に座ると再び理事長の話を聞くことになっただった。


「オッサ・・・理事長本当にうるさかったな・・・」

「お前おっさんって言いかけただろ。やめろよ。聞かれてるかもしれねーんだぞ!」

翔ちゃん・・・自分でおっさんって言っちゃってるから。気づいてないのか。可哀想に・・・

あの後、一通り話を終え一度教室へ戻る様に言われた為理事長室を後にし歩いて教室まで向かっている。転移使うなって釘刺されちゃったからな…後絶対神楽が理事長に言いつけるだろうし。と言うことで仕方なく大人しく言う通り悠達は歩いて教室へと戻っているのだが・・・

「そもそもあの人何歳?見た目どう見ても初等部生位じゃん」

「だからやめろって・・・・・・40くらいじゃねーの?」

悠の言葉に周りを見渡し何かを確認した後大分間を開けそう答える。

いや、そこ真剣に考える所じゃないから後多分違うと思う!

「もう100歳とうに超えてますとか言われる方がよっぽど納得できるよ・・・」

「やめろ。・・・納得出来ちまうだろーが」

理事長に対する不満や疑問をお互いに言い合っているのには訳がある。少し時間は戻り、ソファーに座ったまま理事長が報告書を読み終わるのを待っていたのだが、所々翔が説明を入れつつ読み終わる頃には理事長の眉間に皺が寄り険しい表情になっていた。

「そうか・・・まだ決まってはいないけど‶phantom‶が・・・」

そのまま理事長は黙り込み暫くすると椅子から立ち上がりソファーの近くまで来るとパンと掌を叩き

「ま、phantomのことはいいよ!」

と先ほどの雰囲気は何処へ行ったのやらとても楽しそうな表情を浮かべている。

・・・・いいんだ!?てかさっきの深刻そうな雰囲気返せ!あとこの笑顔は大体なんか企んでる時の笑顔だから今から何話されるんだ。

「それより、今年も交流会があるんだよー!だけど今までよりも早く3月3日にやることにしたよ!残り三週間位だね♪」

それよりって・・・は?なに?ん?・・・なんだそれ

「なにそれ・・・って翔ちゃん?」

寝耳に水な私に比べて翔達は遠い眼をしながら窓から外を眺めていた。しかもなんか微妙な雰囲気醸し出してるし!

「ああ、あれか・・・」

「あれ・・・だねぇ~」

「・・・・はぁ」

「来たねぇ~!」

一人だけテンション可笑しい奴居るけど・・・ってなんで翔ちゃんと新と伶はそんなに虚ろな目をしているんだ。

交流会と聞いた途端、翔と新、そして伶は深い溜息を付き何処か嫌がっているように思える一方有稀だけは一人とても楽しそうにぴょんぴょんと跳ねている。

何処からそんな気力湧いてくるんだよ!他の皆のこと見えてる!?

「交流会か。なんだかよく分からないけど楽しそうだね、悠」

そんな中、この空気で一番場違いである弾んだ聞き覚えのある声が聞え出入口の扉を見る。

「楽しそうって・・・え。ちょっまっ・・って!なんでそんなずっとここにいたみたいな顔して平然と会話に入って来た!?」

「僕はずっと悠の後ろを歩いていたよ?・・・そんな目で見られると困るな」

「ストーカーみたいなこと言わないでよ・・・ジーン」

そう。何故かジーンが居たのだ。理事長ははなから気付いていた様子で特に驚く素振りもない。

さらっと登場してきたけど、え。なんでジーンいる!?・・・魔王に色々頼むって言われたけどまさか色々ってジーンの事も含まれてるって・・・なんでちょっと照れてるんだよジーン!そこじゃない!

「僕を忘れておいていくなんて酷いよ。・・・それにずっと悠達の後ろを着いてきてた気づいていてくれていなかったなんて」

間違いなくストーカーだよそれ。普通に怖い。そして絵面も怖い!

「そんなに影薄いのかな・・・」

いや今それどころじゃないんだけど勝手に落ち込むのやめて!?

一通り会話をした後ジーンはあからさまに落ち込み翔は頭を抱え有稀は驚き新たに話かけ、新は特に気にもしていないのか普通にそれに応じている。怜は少し険しい表情で悠とジーンのやり取りを見ていた。

悠はと言うと、今にも叫びたい衝動を抑え翔以上に頭を抱え項垂れている。・・・ジーンって拗ねると厄介なんだよ!

翔も‶あいつ拗ねるとめんどくさかった記憶しかねーな‶と同じことを考えている。

「男子校に悪魔は・・・しかもあのジーンはちょっと、ね?」

そしてそれを観察している理事長も敵対している悪魔であり男子校の校舎を壊し生徒に多大なる被害を出した元凶であるジーンが居る事には懸念を抱いているようだ。無理もないだろう。

「でも僕はゲートを開ける力がまだない状態だよ。・・・変えるに帰れないのはまさにこう言う状況を言うんだよね?」

「ちょっとジーンは黙ってて。ただでさえ面倒ごとなのに話が面倒になる!」

「流石に僕も傷つくよ?」

ジーンがわざと理事長に挑発的な言葉を投げかける為いつの間にか悠の後ろにいるジーンに言葉を投げかければ少し拗ねた様な表情になる。

間違いなく確信犯だよ!絶対最初からついてくるつもりで扉を開ける時わざとジーンは魔王に力を貸さなかったんだな・・・でも、確かに今のジーンは正直デコピンでも勝てそうなくらいには力が急速に無くなっている。

焦っていた悠だが、心の中では何処か安心していた。何故なら、記憶を書き換えられ間違った記憶のままジーンと戦ったがジーンは悠をずっと見守っていたのだ。どの道帰る手段がない以上ジーンを一人には出来ないだろう。否、したくないと悠の心が言っているのだ。

返したくないと。悪魔でも、唯一の支えだった彼を思いだしたのだ。まだ、離れたくない

「・・・私が責任もってジーンを見張ります。翔ちゃん達も周りにいてもらう様にすればいいだけの話しだと。」

「だけどね・・・そうだ。悪魔は人間の姿にもなることが出来るはずだよね?」

悠の言葉に納得がいかない様子の理事長だったが思いだしたかのようにジーンに言葉を投げかける

「勿論なれるよ。・・・・・・・ほら。ちょっと疲れるけどね。僕は悠と一緒に居る間人間の姿で居たから他の悪魔達に比べると人間の姿で長時間いられるようになったんだ」

理事長が言葉を投げかけると当たり前だと言わんばかりに少し時間をおいて人間の姿へと変わる。曰く、悠のお蔭だと言うが元々力のある悪魔だからこそできることでもある事なのだ。

悪魔の姿とあまり変わっていないが、髪の色がディーブレッドから栗梅色にーくりうめいろ。赤みを帯びた濃い栗皮色の事を指すー、目の色は彼岸花色から鉄紺色ーてつこんいろ。

紺鉄、藍鉄とも呼ばれ銅鉄のような黒い青みの灰色を指すーに変化し、悪魔の象徴である黒髪と赤い色の瞳は全くの別物に変わり背中に生えている翼も無くなっている。また、服も翔達が着ている制服へと変化していた。

悪魔の姿も何気に溶け込めちゃってるから違和感ないけど人間の姿も・・・イケメンだね。うん。なんかムカつくな!!顔がいいのは元から知ってるけど!!

「・・・ど・・・悪魔を男子校には・・・」

とブツブツと何かを言う理事長を横目に悠はジーンを見る。視線に気が付いたのかジーンは優し気な笑みを浮かべもう一度理事長に話しかけた。

「・・・僕はさっきも説明したはずだけど、悪魔だけど人間のふりは慣れているよ。それに、君たち人間が恐れる魔王は僕の兄であり人間の血も入っているよ?」

‶それでも僕を拒否するならここで殺すかい?‶と心の声を付け加えジーンは淡々と困り笑顔で言葉を紡ぐ。

さらっととんでもない発言したんだけど。どれって全部だよ全部!

「嘘だと思ってた・・・マジなのか!」

「はぁ?・・・お前こそマジで知らなかったのかよ!?俺も知らねーけど!」

悠が嘘だと思い込み知らなかった事実と共に魔王がジーンの兄であり人間の血を継いでいる事の二重で翔は驚いているようだ。悠は乾いた笑いをひたすら繰り返している。

私だって十分すぎるほど驚いてるんだけど!!

「はぁ・・・分ったよ。くれぐれも、気づかれないようにね!」

わざとらしく溜息を付きこちらに強く念を押し黄昏ている。

「生徒に甘くなったかな・・・」

と呟いているが・・・ジーン生徒じゃないけどな!?

「てか、さっきから言ってるその交流会ってなに?」

「そうなんだよ♪交流会があるんだよ♪」

さっきとギャップがありすぎるんだけど・・・

悠が話しを戻すと先程の少しピリピリとした空気が一気に和らぎ代わりに理事長がそう叫んだ。それを感じたのか皆ホッとしているようだ。一番ほっと肩をなでおろしたのはジーンなのだが。

「だから、その交流会ってなんなの一体!」

「は?女子校に通ってたんだよな?毎年交流会あるじゃねーか」

呆れた表情でため息を付きながら翔は下に見える少し小さな建物を指差す。・・・あの建物てか校舎も既に懐かしく感じるな

「・・・ってなんで翔ちゃん私が女子校に通ってたの知ってる訳?」

「知ってるに決まってんだろ!お前と会ったの女子校だろーが!それに荷物もわざわざ運んでやっただろ!」

あ、そう言えばそうだった。もうすっかり忘れてたわ・・・

「って荷物・・・・あ。」

思いだした。確か部屋にいつの間にかが来バレてた荷物のことか。最初は理事長が運んだと思ってたけど・・・今なら分かるわ。理事長に言われて仕方なく運んだんだろうな!

「そうなんだー」

「お前興味ねーだろ・・・」

翔は不機嫌そうな表情で眉間に皺を寄せブツブツと何かを呟いているが悠は交流会の事で頭がいっぱいになっているのか何かを思い出そうとしていた。

「あー・・・そう言えばクラスメイト達が何か話してた気がする。担任もなんか言ってような・・・」

その時も、今もだが悠にとっては興味が無い事なのかうろ覚えかつあやふやな記憶のようだ。

確か何か言ってたな・・・これ以上思いだせない!!

「いきなり話戻すなよ!・・・お前去年参加してねーだろ!」

「まだそうと決まった訳じゃないかもしれないじゃん!・・・で、去年っていつやった?」

「・・・毎年2月14日と決まっている」

伶が静かに呟いた。教えてくれてありがとう!!何か出会った頃より口数多いけど一言多いかな!?

「・・・その日お前何やってたんだよ」

「その憐れんだ目でこっち見るのやめて!去年のその日?・・・・えーっと・・・」

目線を泳がせながら記憶を辿る悠だが中々思い出せず翔が‶もう良い‶と止めに入ろうとした時泳いでいた視線が止まり、どうやらその日の事を思い出したようだった。

「その日は・・・学校行ってないな。確かルージと戦ってた。あいつここ数年毎年同じ日に襲撃してくるようになったの思いだした!」

ルージは準中級悪魔に属しルシーと同じく上級悪魔に近い悪魔の一人と言われている。ルージは極度の引っ込み思案な為人間界に来る事は滅多に無いと言われている。だが一年に一度人間界で目撃される時期がある。それは2月14日。人間界で言えば企業が勝手に始めたバレンタインデーだ。

ルージを見たことのある者は多くいるが必ず黒色のマントで身を隠している為容姿は全く分かっていないが、悠は何度もその容姿を見ている。

髪の色は藤煤竹色ーふじすすたけ。赤みの暗い灰紫色の事ーに瞳の色は中紅ーなかべに。

紅花で染めた標準の色の事ーで中央は今様色ーいまよういろ。平安時代に流行った色ーと二種類の色が瞳の中にある珍しい悪魔でもある。

服装はとにかく目立ちたくないという思いからか黒色のワイシャツに黒色のベスト。

そして黒色の七分丈のズボンに黒の靴下、黒色の少しローファーに似たスニーカーを履き極めつけは深めのフードが付いた黒いマントを着ている。シンプルだが人間界ではかなり異質な事を本人は気づいていない。

だって前それ言ったら泣かれたから・・・!

「戦ってたってお前な・・・」

「凄い前は場所とか関係なく襲われてたけど丁度その時は、夜中に悪魔に追いかけまわされた挙句起きたら完全に遅刻で学校行ったらルージが待ち伏せしてたんだよ。」

今まで待ち伏せなんてしなくて突然その日に現れる奴だったのに変だなとは思ったんだよね…

「で、今日14日かなんて思ってたらあー・・・まぁ戦う羽目になったよね!校舎に誰も人がいないんなんて休みだったのかとか思ってたけどその日に交流会があった訳ね。先生も殆ど出払ってたし」

‶そりゃあ先生三人しかいないはずだよ‶、と最後に言葉を付け加えながら軽い口調で言うが、ルージもまた有名な悪魔だ。皆が知らない訳ではないが、既に今まで起きていることや聞いて居る事に慣れてしまっているのか皆苦笑いを浮かべジーンだけは笑顔を絶やさず悠を見ている。

「学校の中でぇ戦ったならぁ停学とかにぃはならなかったのぉ?」

有稀はそう言い首を傾げ悠に問いかける。

「あー・・・ルージが理事長室に入言って言ったおかげで理事長室がボロボロになったけど、なんとか部分的に修復したお蔭でそこまで怒られずに済んで3日間くららい謹慎だけで済んだよ。」

「停学じゃなかったのか・・・あの理事長俺苦手なんだよな。怖えーんだよ。」

そんなに怖いイメージなのかあの理事長は・・・と思っていると

「話がずれてるような気がするのは僕だけかな?・・・それで、その交流会は何をするのか聞いてもいいかい?」

余りにも話が進まないことに疲れ聞いていること自体にも疲れて来たのだろう。ジーンは笑顔のままそう言い放つ。

・・・これでも気を使ってる方だよ。うん。いつもだったら満面の笑みで心抉って来るからな。

ジーンの言葉により話は元の軌道へと修正され本格的に交流会の話しへと変わった。

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