再会と別れ

第52話

全ての準備を済ませ、勿論顔は洗ったし歯も磨いたし寝ぐせはちゃんと直したよ!扉を開けると既に準備を整えた翔が立っていた。

「何やってるの翔ちゃん・・・」

まさか覗き・・・する訳ないか。流石の翔ちゃんもそんな度胸無いだろうし!

「待ってたに決まってんだろ。早く行くぞ!」

何故か機嫌の悪い翔はそう言い残しそそくさと部屋の扉を開け上の階、六階へと繋がる場所へと向かう。

何処にだよ!って突っ込みを入れようとしたのに大体行く場所分かったから突っ込むに突っ込めない状況になっちゃったよ!

仕方なく翔の後を少し早歩きでついて行き隣へ並ぶ。長い廊下を進みながらふと悠は疑問に思う。

「なんか・・・翔ちゃんなんか妙にここの場所詳しくなってない?」

「無理やり覚えさせられたんだよ!」

翔はそう言い、どれだけ大変だったのかを話し始める悠は苦笑いする。

どうやら私が眠っている間にずっと傍にいても仕方ないからと無理やり魔王直々に叩き込まれたらしい。

魔王らしいっちゃらしいけど・・・翔ちゃんを暇つぶしに使ったんだろうな!ジーンは笑顔で図面持ってくるタイプだから・・・どっちも厄介なのには変わらないか。私は両方とも経験済みだけどね!!

そんな話をしているうちに六階へ辿り着いた。悠は既に行く場所が分かっている為大きな扉に手を掛けているが念のため確認する。

「六階に着いたけど・・・謁見の間に行くんだよね?」

「よく分かったな・・・そう言えばそんな名前の場所だったな」

いや覚えてないのかよ!ぼそりと小さく最後の言葉を口にするが隣にいる悠にははっきりと聞こえている。

場所はあってはいたが、どうやら翔は各部屋の名前までは憶えていないと言うよりかは覚える気が無いのだろう。

自分が分かればいい性格故に覚え方も適当だろう。・・・覚えてないのがその証拠だよね。まぁ翔ちゃんだし。そもそも男子校は生活してる年数があるし一応男子校の顔みたいなものだから仕方なく覚えたんだろう!多分。

「そこにもう全員集まってるからな」

「準備早く・・・もないってそれは先に言って!?」

謁見の間の扉の前でそんなやり取りをしていると突然扉がこちらを押すように開いた。

避けるのが遅くなってしまい少し赤くなった鼻を摩っていると声と共に腰に手を当てそのまま引き寄せる。悠は嫌がる事も無くなすがままだが声の主が分かっているのだ。

「心配したんだよ悠!」

「あー・・・ごめん。でも私だってまさかずっと寝る事になるとは思ってなかったんだよ」

まるで恋人の様なその光景だが当の本人である悠は抱きしめられている力が強く傍から見ればやんわりと、だがこっちにしたらめいいっぱい押し返してるんだよ!

ジーンは力の加減が昔からへたくそだからと言うより悪魔は基本他の種族に対して力の加減が限りなく下手なんだよね…

「悠。・・・気分はどうだ?」

そう低い声で悠に聞きながらジーンを無理やり剥がし自らの横に立たせたのは魔王だ。

「特に。少し怠いけど多分寝すぎたせいか起きて早々鬼のような顔した翔ちゃんを見たからかどっちかじゃない?ま、今も状況はよく分かってないんだけど。」

そう言い薄く何とも言えない表情を浮かべ苦笑いする悠に魔王は翔を先にジーンと共に有稀達のいる場所へと戻す。・・・後で色々聞かれるの私なんだけど、と小さく溜息を付いた。

「・・・悠は忘れていたかもしれないが、俺達と同じ力を使うと眠りに入ることは分かってはいた。が、ここまで眠り続け自覚すらないのは‶あの時‶より久しい。俺もジーンも流石に取り乱した。・・・記憶から解き放たれ何があったのかは知らん。・・・しかしその力はそれほどまで強大な力なのか。」

・・・うん。まだ少し混乱してるけど伊達に魔王って称号持ってる訳じゃないな。

大体のことは把握済みか。

「あの時よりかは上手く循環出来てたけど今まで使いこなせてなかった力まで引き出したからこうなったんだよ。まぁ、大体魔王の予測通りだよ」

終始険しい表情で悠を見つめ魔王だがよく見ずとも寝不足なのか目の下にはくっきりと隈がありやや頬がこけている。

相当心配していたのが表情からすぐに読み取ることが出来、拍子抜けしてしまった。

魔王の威厳が全くない・・・そんなに心配する必要ないのにな。魔王も翔ちゃんも優しいよね

「本当に“あの時‶の様にはならないのだな」

念を押すように確認する魔王に軽く返答する。

「全く分からないけどならないと思うよ。多分。」

ああ、痛いな・・・痛い痛い!正直魔王の話しこれ以上聞いてられないんだよね!突き刺さってるんだよさっきから!!

「多分で済む話ではない事は分かっているだろう」

「この話はまた次会った時にして。・・・とりあえずジーンと翔ちゃんの視線が突き刺さって痛い」

てか穴開く程見られてるのに何とも思わないのか魔王は!!

・・・あ、魔王だからなんと思わないか

と、突然翔の顔が真正面に現れ驚き後ろへ下がる。どうやら魔王が悠を連れ翔、有稀と新。そして伶のいる謁見の間の中央に魔王と共に移動していた。

「移動するなら移動するって言ってくれないかな!!」

なんで皆突然何も言わずに色々やっちゃう訳!?と心の中で大きく溜息を付く。

悠が魔王の話しを終わらせた理由は話が長くなるのが目に見えて分かっていた事。そして何より翔の顔色や遠目からしか見ていなかった有稀、新、そして伶の顔色が悪くなっていたのが確認できたからだ。

あの空間に入った時、そして魔界に入り直ぐに掛けた術は、悠の悪魔の力が暴走し意識を失った事によって効力が無くなっている。

自らかけることも出来るが力の消費が大きいため翔達は術は掛けてはおらずあの戦いから数日経っているとは言え力が完全に戻る訳ではない。


皆治癒で何とか瘴気を抑えてたみたいと言うか今目の前でやってるからそうなんだろうけど!!

魔界にいる限り今の状態のままなんだよね・・・帰ったらすぐに良くなるのは不思議な所でもあるけど。

その為、元々魔界の空気は良くないがそれに加え力の消耗及び悠が三日間眠り続けていたことによる魔界の滞在期間が長いためもうここに留まるには限界だろう。

「その通りだな。・・・あいつらかなり無理をしているようだからな」

その思考を魔王に読まれていたがいつもの事な為気にしていない悠だが最後に小さく呟いた魔王の言葉に驚いた表情を浮かべた。

勝手に心読むなよ!って言おうと思ってたけど魔王が私と散々聞いたlabyrinthとphantom以外に心配することがあるなんて・・・こういう変化があったなら翔ちゃん達を連れてきてよかったかもしれない。そもそも理事長に言われてるから連れて来る以外選択しなかったんだけどね!

「ようやく帰れるねぇ!」

ぐっと大きく背伸びをしてこちらの顔を覗き込むのは有稀だ。

それは嫌味か!?ま、まぁ三日も待たせたのは事実だから何も言い返せないんだけど!

「待ち疲れたよ~」

と続いて新が翔の肩に手を置きニヤリと笑いながらこちらを見てくる。伶は少し視線をさ迷わせ何も言葉を発さない。

・・・こう見てみると翔ちゃんはあんまり顔色悪くないけど他の三人異常にに顔色悪いんだけどなんかやった?

「悠。俺はまだ力が回復していない。・・・色々と頼んだ。」

魔王のその言葉に翔は心底不思議そうな表情を浮かべる。それを見たジーンはよっぽどツボに入ってしまったのか肩を震わせ笑いをこらえている。

魔王は言葉足りないからな・・・と笑いをこらえているジーンと死ぬほどキョトンとした表情の二人の温度差凄いな。

有稀や新、そして伶もなんとなく分かってはいるようだが翔のその表情に心底不思議な表情をしている。連鎖してる・・・!

「・・・言葉が足りないし色々は分からないけど、今手伝うことは分かった」

何をするのかジーン以外は見当がついていないがそう返事をすると少し離れた場所で立つ魔王に近づき方に手を置く。・・・この方がやりやすいし馴染みやすい。

「おい何するつもりだよ」

「翔聞いていなかったみたいだね。今から魔王が持つゲートを開くんだよ。でも僕もあまり力が残っていないから起きたばかりの悠に協力してもらうんだよ。あの子達にも説明はしたよ?」

翔の焦った表情と今にと飛び出していきそうな勢いにジーンは少し強めに翔の腕を持ちそう説明する。

翔は悠の事で相当頭がいっぱいになっていたようで気を紛らわせるために城の案内をした事だけしか覚えていないようだ。実際、そう心の声がジーンは聞こえたのだ。

一体翔ちゃんなにやってるのか・・・ってこっちに集中しないと。後で何やってたか聞こう!

「我は界を治める王なり。我の問いかけに答えよ」

魔王がそう唱え始めると目の前の空間が大きく歪みうっすらと扉の様な物が浮き出る。

「我、汝よりゲートを開き繋ぐ為の力の糧として来たり」

「「姿を現し扉を開けろ」」

そして悠が魔王の言葉に重なる勢いで別の言葉を唱え魔王と共に唱えれば男子校で魔王と会話した際に出現した扉に似たゲートが出現する。

刹那、その扉から膨大な力が発せられておりまるで威圧されているようだ。

そもそも本来専用の扉は力の有無で出現の大きさが決まっている。

今回魔王は激しい戦闘故力の消耗が激しく自ら出現させることが出来たとしても人間が入ることなど到底無理な小さな扉しか出せないのだが悠が悪魔の力を使える事になったことにより力を共鳴させ大きな扉を出現出来るようになったのだ。

けして人間の力は借りないと言われている悪魔が人間である悠の力を借りる事に何か意味があるのだろう。

「相変わらず・・・否、それ以上にその力はでたらめだな」

「そんなに変わったの?ま、いっか。・・・・龍おいで。」

魔王の言葉に軽く言葉を返しどこかそわそわした様子で名を呼べば小さな姿の龍がちょこんと悠の肩に乗る。

四従士と共に姿が見えなくなり倒れた後でもつねに龍の存在を感じていた悠は直ぐにでも名を呼びたかったのだが色々とあった故に今まで名を呼べずにいたのだがようやく呼べたことに安堵の表情を浮かべる。

また、龍も主人の傍に居られることに安心したのか機嫌がよさそうだ。

四従士の気配があることも確認し扉に近づけば今まで閉じていた扉が開き無くなる。

悪魔が使う扉ってなんか先が見えなくて暗いんだよね…だけど壁とかにぶつからないし中の仕組みがどうなってるのか気になってるんだよね!

「翔ちゃん何してるの?もうあの三人先に行っちゃったけど」

なんて、考えていると相当早く帰りたかったのだろう。真っ先に新が扉の中へと入りそれに続き伶と有稀も扉の中へと入って行く。それを見届けていた悠だが、翔が動かない為声をかけた。

「あ、ああ・・・」

歯切れの悪い返事をし、翔は後ろを振り返ると魔王とジーンを一瞬視界に入れ扉へ体を向けるとそのまま扉へと入って行く。

「じゃ、また来る。・・・さっき少しだけ力を回復さたけどあまり無茶な事はしない方がいいよ。」

「ああ、分かっている。・・・またな悠。」

愁いを帯びた表情にどこか違和感を感じつつ入り口で待つ翔の元へと早歩きで近づいていく。だが、悠はその間魔王の様子が気になっていた。否、魔界へ来た時から気になっていたのだ。

・・・魔王、絶対に様子が可笑しい。それに、何か隠してる気がする。そう思い振り向きかけた時翔に呼び止められ動きを止める。

「行くんじゃねーのかよ?」

先程とは逆の立場になったことに何故か少しだけ腹が立ち

「そりゃあ行くよ!」

と強く返事をしていた。後ろ髪惹かれる思いはあったもののこのまま魔界にとどまり続ければ悠の身体にも負担がかかる為、こうして悠と翔は学園へ繋がる扉へと入った。ただ一つ、小さな不安としこりを残して・・・。


ゲートをくぐり、何度か見ただけで決して見慣れた景色とは言い難いが、帰って来たとほっとしかけたが・・・先に着いていた有稀達の様子と自分の体の震えにそれどころではなくなってしまっていた。

「理事長室の近くがいいとは思ったけど・・・流石に廊下は無いよ!!」

そう悠が叫ぶが先に付いた有稀達は既に魔界とは違う意味で顔色が悪い。相当寒いようだ。それもそうだろう。季節は2月。思っていたよりも早く帰ってこれたが魔界へ出かけたのが秋だった為今の制服では寒さはしのげない。

そう言えばゲートって出る場所を明確に指定することができるんだけどそう言えば今回かなり曖昧でちゃんと指定してなかった気がする・・・でも廊下は無い!

てか、とりあえず寒い!ナニコレ、寒すぎる!早くどこでもいいから部屋に!精霊で暖取る訳にも行かないし!!

「廊下に着くとか有りかよ!つか、寒すぎだろ!」

男子校しか指定してなかったから適当な場所に繋がっちゃったんだよ!!廊下とは思わなかったけど!とはこの状況で言えない…と思っている中口々に‶寒い‶と言い始める。

「もぉ凄くぅ寒いよぉ!」

「・・・一刻も早く、報告を・・・」

有稀はしゃがみ込み両手で身体を摩り伶に至ってはもはや人間に機械を埋め込んだ様に微動だにせず冷静に話していると本人は思っているようだが小刻みに体が震えまるでバイブレーション機能を付けたようだ。つかそんなに震えてるのに表情が変わらないのはある意味凄いよ!

「なら早く報告しに行こうか~。丁度理事長室の近くだしね~」

なんて、やや早口で言う新だが唇の色は紫色になっている。だがいつもと変わず気の抜けた声と共に素早く無言で皆が歩き、・・・走り始める。そして理事長室の扉を開けたのは新だった。

相当寒いの我慢してたんだな・・・まぁ、着崩してるし一番寒いかも。でも有稀も短パンだし寒いよね・・・。

そして有稀、伶、翔を順に部屋に入って行き最後に悠が扉を閉める。

見慣れていないはずだがどこか懐かしささえ感じる通路を渡り理事長室の扉を開ければ部屋の中から温かな風が体を包み込んだ。理事長室の中ははとても暖かく、部屋に入るや否や一気に皆の機嫌が元に戻る。

本当に単純で現金なやつらだな!ま、私もその一人なんだけど。この部屋凄い暖かいな!!凍え死ぬ前に部屋に入れてよかった

…本当に。うん。

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