第50話

「おい。なんだ‶あれ‶は!!・・・・・悠。さっさと城を直せ。」


城に近づくや否や魔王の威厳が無くなるのではないかという程怒り狂った表情で魔王は悠に迫る。翔は気まずそうに視線を逸らした。・・・そこには半壊した城がある。

元々の原因は魔王が部屋に閉じ込めたからなんだけど・・・城傾いてるわ。同じ様に魔王の機嫌もかなり傾いてるし・・・

「あー・・・そう言えば壊したんだった。てかなんで私だってわかった!?あ、でも翔ちゃんも一緒に壊したから私のせいだけじゃないよ!!」

「おい!!悠、お前共犯にするんじゃねーよ!・・・確かに俺も加担したけどな!!」

魔王に向かいそう告げる悠に翔があわてふためき悠の肩を掴む。翔ちゃん墓穴彫ってるよ・・・

「一刻も早く直せ!」

魔王のとても低く大きな声が辺りに響き悠と翔は顔を見合わせる。翔に至っては顔色が悪く冷や汗をかいているようだ。流石の悠も表情が引きずっている。


‶魔王の機嫌がこれ以上悪くなる前にさっさと直そう‶

悠と翔の心の声が一致した瞬間だった。


城を直す為、翔に理事長が天井を直す際に行っていた術を教え細かい場所を任せ悠が大まかな修復に取り掛かった。者の5分ほどで城は元に戻ったが殆ど悠が修復したようなものだ。

魔王は白が元に戻り安心したのか、機嫌も若干だが良くなりその際に

「今日はもう休め。」

と言い残しそのままジーンを連れ最上階へと消えた。

これ放置された様なものだよ・・・まぁ、でも元使ってた部屋で休むしかないよな。

「じゃあね~」

新がそう言い残し有稀はこちらに向けて手を振り伶は何も言わず新の後に続き転移を使いその場を後にする。目の前には無理やり壊した部屋ー既に直っているーと隣には肩で息をする翔。

・・・もう休めればどこでもいいや。・・・バルコニーに降り立ち外から時計を見る。

疲れるに決まってるわ・・・時計は午前12時を遥かに過ぎていた。人間界で言うと今は夜中だ…


先にお風呂から上がった悠はベッドにダイブし真ん中で上を見上げる。自身の身体がベッドに吸い込まれるように沈んでいくのを感じ、思っていたより疲れていることに気が付く。

「疲れてるのは当たり前か・・・なんか返って来たって感じする」

そう言いながらベッドの上をゴロゴロと転がっていると視線と共に心底呆れた声が聞こえる。

「何やってんだお前・・・」

「あ、翔ちゃん」

ついさきっきまで翔ちゃんがいること覚えてたのにベッドで転がってたら翔ちゃんが居る事忘れてたよ!

バスローブではなく制服のシャツとズボンと身軽になった翔の頭には真っ白いバスタオルがかけられており髪の毛からは拭き取れていない水分がポタポタと床に落ちている。

「ついに可笑しくなったかと思ったじゃねーか!」

「翔ちゃんもまあまあ可笑しいと思うよ!」

ついにって何だついにって!と、一言余計な翔の言葉に笑顔でそう返せば‶可笑しい奴に可笑しいと言われた‶と困惑した様な、はたまた憐れを含んだ表情でこちらを見つめる。

いや、なんで憐れんだ顔してるのかな!?

「つかなんで俺達別々の部屋じゃねーんだよ…同じ部屋に居る意味あるのか?」

「その部屋割りを決めた魔王が先にジーン連れていっちゃったんだから仕方ないじゃん・・・」

てか魔王絶対部屋割りとか忘れてるだろうし・・・ジーンの事で頭一杯だろうから。それに他の三人も疲れてそれどころじゃないからとは言えない。

あれだけ戦って疲労もかなり溜まってるはずなのに何で翔ちゃんはこんなに元気なのか・・・あぁ、馬鹿って風邪ひいたことに気が付かないのと同じ感じか!

「おい心の声が聞こえてんだよ!風邪ひいたことに気が付かないのと同じとか俺は自分の体調管理くらいできるに決まってんだろーが!お前の方が馬鹿だろ!」

やべ・・・いつの間に話してたんだ私。

殆ど初めから心の声が漏れていたのだが翔はそのことには触れず少し怒った表情でベッドに上がり悠の近くに座ろうとするとベッドから起き上がり淵に座る様に促した。

「翔ちゃん。そこじゃなくてここに座って。」

少し眉間に皺を寄せたものの文句を言う事も無く大人しくこちらの指示に従っている様子からやはり疲れが溜まっているのだと分かる。

軽く返事をし、こちらが指定した場所へと腰を下ろした。

翔の背後に膝立の状態になると頭に掛けられている白いタオルを手に取り翔の髪の毛を拭き始める。

突然の事に相当驚いたのか声が裏返りこちらを振り向く。

「は!!?お前、悠・・・何してんだよ!?」

そこまで驚くこともでもないと思うんだけど・・・どうして声裏返った?

「髪の毛から水滴落ちててずっと気になってたんだよ。」

「今日はめんどくせーから雑にしか拭いてねーんだよ」

翔の顔を無理やり前に向け髪の毛を拭き続ける悠に仕方ないか、といった雰囲気を纏い大人しく相手の思うがままにされている姿は何処か違和感を覚える。

その後も暫くの間他愛のない話をしながら翔の髪の水分を優しく吸い取っていく。

翔ちゃんって元々人に触られるの苦手で昔も良く逃げ回ってたのに今日はやけに大人しいのがなんか・・・気持ち悪いな!

「翔ちゃん髪の毛やっぱりに柔らかいよね・・・なんかムカつく」

「よく言われるな。つか素手で触んなよ!」

翔は眉間に深く皺を寄せ悠の手をやんわりとぞんざにあつかうことなく手を払う。それに対し特に気に留めていない所か言葉の方が気になったのか悠の鋭い突っ込みが入る。

「言ってる事とやってること矛盾してるけど!?」

よく言われるって事は髪の毛よく触られてるって事なんだけど・・・!なおに触られたくないとかやっぱりめんどくさいな!でも、やっぱり特にお風呂上りに素手で触られるのが嫌いなのは小さい頃から変わってないな・・・

「・・・よし。大分乾いた」

他愛もない話をしている間に髪の毛の水分も取れ真っ白いタオルは水分を多く含み重みがある。

その真っ白なタオルを何故か再び翔の頭に乗せるとさらりと当たり前の様に術を発動する。

「水は水へと還るて弾け、かの者達の糧となれ。」

真っ白なタオルに含まれていた水分と翔の髪の毛に残っていた僅かな水分が弾けるように小さな粒となり宙に浮く。すると水色の仄かな柔らかな光が集まり小さな粒となっていた水はその光に引き寄せられ消えていく。それを見ていた翔は呆れた様子でこちらに語り掛ける。

「精霊を簡単に呼び出せるのが疑問だったんだけどな・・・悠、お前元々微精霊と相性が良かったんじゃねーのか?」

「術唱えただけでそこまで分かる翔ちゃんなんか凄い怖いんだけど・・・どうしたの?変な物でも食べた?それとも戦ったときに当た弾でもぶつけた訳?」

「なんでだよ!つか俺の扱いひでーな!!」

そんないつもの変わらないくだらないやり取りをしている間に翔ちゃんの髪の毛から光が消えた。乾いているのかを確認するために再び髪の毛に触れると殆ど水分は微精霊により無くなっているがどことなく湿っている。

「あー・・・仕方ないか。小さく風は小さき炎と混ざり合い熱風となれ」

悠はそう言うと再び術を唱え始める、掌に小さな薄緑色の光が風が渦を巻き、朱色の光が薄緑色の光に集まると冷たさを帯びていた風の温度が急激に上昇する。

これ熱いように見えるんだけど術者本人には何の影響もないから意外と便利なんだよね。何時もは一緒にやるんだけど・・・翔ちゃん髪の毛はある程度はちゃんと拭こうよ。

手の中で渦巻いている熱風を翔の髪の毛へ近づけると真っ白なタオルが洗い立ての様にふわふわと厚みを増す。タオルを取り少し威力の落ちた熱風を翔の髪の毛に直接当てると残っている水分が抜けさらさらとさらに触り心地の良い髪質へとなり熱風は翔の頭上で消えた。

さっきまで髪の毛触るの嫌がってたのに何も言わないどころか動きもしなくなったんだけど・・・やっぱり相当疲れてるのか。

「翔ちゃん終わったよー・・・翔ちゃん?翔ちゃってば!!」

終わったことを知らせるため翔に話しかけるが反応が無い為少し大きな声と共にさらに強く揺するゆするがやはり反応がない。・・・座ったまま寝たの!?器用というか、子供か!

「翔ちゃんこんなところで寝られても困るから!起きろ!・・・ってうわ!?」

・・・揺すっても起きないなら頭叩いたら起きるかと思ったのが間違いだった!!お、重い・・・

悠が頭を強く叩いた反動で翔はそのまま左右に揺れながら前へ倒れそうになった為後ろに下がり慌てて頭だけでも、と支えようとしたが結局重さに耐え切れずそのまま此方に倒れ・・・

ベッドの上で何故か正座していた悠が翔の頭を太ももで受け止める事態になってしまったのだ。

なんとか翔をベッドまで引き上げたはいいが・・・この体制膝枕っていうやつじゃ

下を見ればすぐ近くに翔の顔があり、とても幸せそうな表情で悠の太ももの上で寝返りを打つ。

いや寝返り打つなって言うか何勝手に幸せそうに寝てる訳!?

「いい加減に・・・・起きろってば!!重い!!」

再び先ほどとは桁外れの威力で翔の頭を殴ればガツンとしてはいけない音と共に翔が飛び上がり頭を押さえ蹲り何故か再び膝の上に戻る。しかし頭を押さえたまま動く気配がない・・・やべ。流石に強すぎたかも

「いっってーな!!!!なんなんだよ!!」

強く殴り過ぎたと反省しかけていたこちらの気持ちとは裏腹に翔は自身が寝ていたことにさえ気づいておらず状況を理解できず痛みに耐えている様子に反省しかけていた気持ちは悠の中か羅完全に消えていた。

「それはこっちの台詞なんだけど!!とっとと膝から頭下ろせ。てか寝たのも覚えてない訳!?」

悠の言葉に翔は慌てて起き上り殴られた場所を治癒で治しながもそのまま言い争いに発展しかけた時、その場に似合わぬコンコンと軽いノックオンが聞こえた。そのまま翔と顔を見合わせた後仕方なく二人で扉まで向かう。

「悠ちゃん遊びに来たよぉ!」

扉を開ける前に既に聞き覚えのある声が聞こえ有稀と新、そして伶も部屋の前に来ているのが気配で分かり、というよりかは大体あいつらが一人でここに来る訳ないし。何しに来たのか知らないけど・・・と仕方なく扉を開ければ半ば押し入る様に部屋に入ってくる為悠と翔はそのまま後退する様に部屋に押し戻された。

なんか凄い元気になってるんだけど・・・ってそもそも何しに来たんだよ!

追い出すことも出来ず勝手にベッドの上で話し出す有稀や新、怜を横目に翔とのやり取りを見て小さく溜息を付きアンティーク調の机と一人用のソファーに乱雑に置かれた翔の制服を手に取ると机の上にコロンと小さな玉が落ちる。

それは通信用に渡された機械であり、光を帯び続けている。


「なんか光ってる・・・あれこれデジャブ」


理事長と通信した時の事を思い出し光かったが全く同じなことに気付いた悠は翔の制服を皺にならない様に椅子に掛けると翔達が居るベッドへと向かう。

「翔ちゃん、はいこれ」

そう言い手に持っている通信用の機械を手渡すと何の躊躇いもなく受け取り、受け取った物が機械であり理事長と通信した時の様に淡く光りを帯びていることに気が付き慌てて掌を翳す。

てかせめて名に渡されたかぐらいは確認しようよ翔ちゃん!!

電源は既に入っており画面表示が解除されていただけだったのか画面が飛び出てくると当時に有稀

のてが翔の横から出て来るとそのまま通信開始のボタンを押した為突然通話が始まってしまう。

画面いっぱいに理事長の顔が映しだされその場に居る全員が翔から後ずさった。

「おいお前らそれはねーだろ!?」

その行動に翔が声を出すと通信が開始されていることに気が付いた理事長の顔が遠ざかる。

話しに入るにはベッドの上に乗らなければならないので仕方なくベッドの上にのり翔の横に座った。有稀と新、怜は理事長の顔が全面に映し出されたことがよほど恐怖だったのか翔を壁の様にし背中から顔を出す。・・・私も壁になってるんだけどてかさりげなく新は私の肩に手を回すな!

『全く通信できなくて焦ったよ!!』

理事長の大きな声が部屋全体に響きつい耳を塞ぐ。こっちも耳が可笑しくなるかと思って焦ったわ!!

「色々あったんで・・・」

『こっちに来ていた悪魔が来なくなって扉も消えたから解決で来たと思ったんだよ!だけど全く連絡取れなくて困ったよ!』

どうにか扉を閉め悪魔が男子校へと襲撃し続ける事態は収束で来たのだと理事長の話しで理解できた、が、通信できないってやっぱりこれ未完成ってことか・・・そもそも使ってる余裕全くなかったんだけどね!

「こっちは一応、無事と言えるかは分からないけど解決したけど問題点が増え過ぎたから帰ってから報告しないといけないことはあるけど・・・一ヶ月後には帰れると思うよ。」

『生きてるだけ十分だよ♪こっちは既に三ヶ月が経ったよ!』

まぁ、そんなくらいは経ってるよね・・・と突然横から淡々とした声が聞こえた。

「理事長。後は帰ってから報告します」

その声の主は翔だ。話しに割り込み、何故か通信を終了させようとする。

『ああ、そうそう。帰ってきたら・・・』

そして理事長が何か話し出す前に本当に通信終了のボタンを切ってしまったのだ。

「ああいう時は絶対話しなげーんだよ」

「確かにそうだよねぇ!」

「僕らまだつかれてるからね~」

「・・・休息は必要だ」

次々に理事長に対し文句が出るが、いや休息してないしむしろただ理事長の話聞くのめんどくさかっただけでしょ?!てか有稀と新は凄く元気そうだから休息要らないと思うけど!?

それになんか重要な話しなんじゃないのか・・・ま、もう通信終了しちゃったし帰れば分かるか!

悠は心の中で突っ込み、自己完結すると未だに愚痴をこぼしている彼らの話しを軽く流しながら聞いていた。


結局、何をしに来たのか分からないまま有稀達は何気ない日常の話しをするとさっさと自分達が与えられた部屋に帰っていってしまった。

マジで何しに来たんだよ・・・とベッドに倒れ込む。

実は有稀達が何げない日常の会話をしている時から悠は眠気に襲われていた。

初めは少し眠い程度だったのだが有稀達が返る頃には強烈な眠気に襲われており前後の記憶が曖昧になっていたのだ。

眠い・・・ただただ眠すぎる。なんでこんなにねむい・・・駄目だ

「寝る・・・おやす・・・み・・・・」

ねむい・・・

「は?・・・悠お前、この状況で寝るんじゃねーよ・・・!?」

ベッドに身体が沈み心地よい感触に包まれ瞼は既に開かない。最後に聞こえたのは翔の絶望的な呆れた声だけだった。


そこから悠の記憶はプツリと完全に途切れ暗転した。

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